北ミサイル発射、武力挑発は断じて許されぬ


 北朝鮮が東部の元山付近から新型の短距離弾道ミサイル2発を日本海に向け発射した。来月始まる米韓合同軍事演習を牽制(けんせい)したものとみられるが、飛距離はいずれも約600㌔に達したといい、発射の方角次第では日本の一部領土に到達する。いかなる理由があれ危険極まりない武力挑発だ。断じて許されない。

 ロシア製に似た新型

 北朝鮮は5月にも北西部の亀城から同型と思われる短距離弾道ミサイル2発を発射している。韓国軍当局によれば、5月も今回も発射されたのはロシア製弾道ミサイル「イスカンデル」に特性が似ている。

 イスカンデルは低高度で飛行するなどレーダー追跡を避け、迎撃が難しいとされる。北朝鮮は昨年初めから対話路線に乗り出したが、その裏ではこうした新型ミサイルの開発にも余念がなかったわけだ。

 今回の発射は北朝鮮に弾道ミサイル技術を利用した、いかなる飛翔体発射も禁じた国連安保理決議にも違反する。だが、北朝鮮は友好国である中国やロシアの後ろ盾があるためか、平気で決議違反を繰り返している。

 先月末、板門店で行われた3回目の米朝首脳会談では実務者協議再開で合意したが、開催時期は大きくずれ込む見通しだ。北朝鮮は対米交渉の主導権を握るためにミサイル発射に踏み切った可能性がある。

 しかも北朝鮮との対話を継続したいがため、核実験や長距離弾道ミサイル発射以外は問題視しないトランプ米大統領の足元を見て、許容範囲ぎりぎりの線まで挑発したように見える。いつもながらしたたかだ。

 米国務省は「これ以上の挑発は駄目」としながらも「外交的解決を望む」との立場を明らかにした。北朝鮮の挑発に事実上目をつぶり、非難を自制したのは問題だ。このまま何事もなかったように無条件に北朝鮮との対話を再開させるわけにはいかない。

 新型ミサイル発射は韓国の文在寅政権を揺さぶる狙いもあったとみえる。北朝鮮の国営メディアによると、発射に立ち会った金正恩朝鮮労働党委員長は韓国が「先端攻撃型武器を搬入した」として非難した。北朝鮮による弾道ミサイル攻撃を想定した高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の追加配備を断念させ、あわよくばすでに配備されたものまで撤収させようという魂胆だろう。

 内外の批判をよそに南北融和路線を懸命に維持しようとする文政権がこれになびくのではないか心配される。

 正恩氏はこれに先立ち新たに建造された潜水艦を視察した。どのような機能を備えているのか詳細は不明だが、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載しているとすれば深刻な事態だ。同艦は近く日本海の作戦水域に配備されるといい、本格運用されれば日本にとっても重大な脅威だ。

 軽視できぬ日韓安保連携

 日韓関係悪化に伴い、韓国では反日感情に任せて日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の見直し論まで出ている。北朝鮮の脅威に対抗する安保連携だけは何があっても軽視してはならない。