ALD技術を広めたい スントラ博士

「ミレニアム技術賞」を受賞したスントラ博士に聞く

 「持続可能な開発と生活の質向上を促進する技術革新」に対して贈られる国際的な賞、「ミレニアム技術賞」の授賞式が22日、フィンランドの首都ヘルシンキで行われ、フィンランドのトゥオモ・スントラ博士が受賞した。スントラ氏は、1974年に真空を利用した成膜技術の一つである原子層堆積(ALD)技術を発明した。ALD技術は汎用性があり、多くのハイテク分野で非常に役立つナノスケールの技術と言われ、IT機器の小型化や低価格化、高性能化をもたらした。医学やエネルギー分野にも応用されようとしている画期的な技術だ。(ヘルシンキ・吉住哲男)

物理の基礎、根源の探求も

ミレニアム技術賞の受賞に、どのような意義を感じるか。

スントラ博士

 トゥオモ・スントラ 1943年生まれ。ヘルシンキ工科大学電気工学科で電子物理学を専攻。大学院で、材料工学と薄膜技術研究に取り組み、71年に物理学博士号。産業用高精度湿度計で世界的なシェアを持つヴァイサラ社での薄膜湿度センサーを開発。74年、医療機器メーカー、インストルメンタリウムで、後にALDと言われる原子層エピタキシー(ALE)技術を開発し、ELディスプレーの最先端技術となった。現在、ALD成膜装置の開発・製造関係のピコサン社の理事。ALD技術と薄膜装置に関して取得した特許は15件に上り、ミレニアム技術賞を含め八つの賞を受賞した。

 この技術に対する評価が、かつて想像もできなかったほど高まった今日に賞を受けたことに、大きな意義と意味を感じる。

なぜ科学者の道を選んだのか。

 自然の成り行きだ。子供の頃から技術に関心があり、12歳か13歳の時、トランジスタラジオを自分で組み立てた。その頃から科学や技術を勉強することが好きで、科学者の道へ進むようになった。

大学院生の頃、後にADL技術の開発につながる非晶質薄膜における高速スイッチング現象の研究を始めている。

 大学を卒業したのが1967年で、当時、非晶質分野の電子現象のニュース報道に、非常に関心を持った。大学院で研究の機会が与えられ、理論的にその研究を実用化できるのではないかと思った。その研究が、ALD技術の開発につながった。

科学者として、最も感動したことを教えてほしい。

 ミレニアム技術賞の受賞を知らされたことだ。科学者として最高の感動だ。もちろん、81年、ELディスプレーが認められ、国際情報ディスプレイ学会(SID)から賞を受けた時も感動したが、当時は4000のELディスプレーの注文があったにもかかわらず、それをこなすだけの生産ラインはなかった。

今後の目標、やりたいことは。

800

フィンランドのニーニスト大統領(右)に賞を授与されるスントラ博士

 ALDの推進に貢献していこうと思っているが、それ以上に物理学の基礎、根源の探求を深めていきたい。これは、学生時代から関心があったことで、歴史をさかのぼり、かつての科学者たちの自然界の現象に対する理解を見詰め、その当時の内容を現在の科学的数値で表すことで、自然界を深く理解できるのではないかと考えている。

 自分の歴史上のヒーローはアリストテレスで、彼は、科学の目的は自然界を理解することだと唱えた。現在の物理学は、目の前の現象を理解することを中心としており、それを数式で表すことで良しとしている世界があるが、私はそれらの現象を、物理学の根源、根本的な世界を探求することを通じて理解できると考えている。

将来科学者になることを目標にしている若者に対してメッセージ、アドバイスを。

 己の内側の強みを見いだしてほしい。そのことが、成功につながるのではないか。

家族の調和、良い友人関係が、大きな喜びとくつろぎをもたらすと語っているが、家族の調和、関係を高めるためにどのような努力をしているか。

 それは自然な形で表れるものであり、人間性の深みとして表れるものだと思う。具体的に例を挙げれば、相手に感謝すること。自分を尊敬するように、相手に対しても尊敬の念を抱くことだと思う。それが、家族の調和につながり、他人に対しても、また、世界に対しても同じように尊敬し、感謝することにつながると思う。

 ミレニアム技術賞 フィンランドの産業界、諸団体が、政府と共同して創設、独立団体「フィンランド技術賞財団」が運営している。隔年ごとに授賞式が行われ、100万ユーロ(約1億3000万円)が贈られる。2006年にはノーベル物理学賞を受賞した中村修二博士が受賞した。