長寿国日本、次の課題は「健康寿命の延ばし方」

東京都健康長寿医療センター研究所 大渕修一部長

社会と繋がり「心の健康」増進

 日本は世界に冠たる長寿国になった。しかし、その裏で要介護や寝たきりになって余生を過ごす高齢者もいる。長寿を達成した日本、次の課題となっているのが健康寿命の延伸。東京都理学療法士協会は、このほど、「健康寿命の延ばし方」と題して、東京都健康長寿医療センター研究所の大渕修一部長による講演会を京王聖蹟桜ヶ丘ショッピングセンターのアウラホールで開いた。

筋力アップ、過剰負荷は禁物

長寿国日本、次の課題は「健康寿命の延ばし方」

講演する大渕修一部長

 政府が発表している平均寿命は女性86・4歳、男性79・6歳。健康な期間が女性で73歳、男性で70歳。“不健康の寿命”が女性で12年、男性で9年。そんなに“不健康寿命”が長いのかと、思わされる。長寿医療センターのある板橋区で大渕氏らが調査してみたら、「設問の定義」によって大きく開きがあることが分かった。

 政府の調査は「健康上の問題で日常生活に影響がありますか?」という問いに「ある」と答えた段階から“不健康”と判断する。70歳を過ぎると、健康状態は若い時と違って、いろいろと制限を受けるようになってくる。

 長寿医療センターの70歳以上に対する調査では、「バスや電車で外出できますか」という質問に90%近くが「できる」と答える。実際に体が弱くなり、動けなくなって「要介護」になってから死亡するまで女性で3年ぐらい、男性で1年だった。また、「友人や親戚と週に1回以上顔を合わせていますか」という質問に「ない」という人が半数を超える。

 政府の調査と実態の乖離(かいり)は体の問題ではなく、心の問題だと分かった。社会から必要とされていると感じているか、関わりを持ちたいと思っているか、人と会いたいと思っているか――など、心の前向きさが大きなポイントになってくる。自分のためだけだと、健康維持の努力を継続することは難しいが、社会との関わりの中で、やりたいと思いながら、町内会の催事に参加したり、運動したり、食事制限したり、認知症の予防をするのは比較的やりやすい。

 運動に関して、大渕氏は運動の負荷について、ドイツの生物学者ヴィルヘルム・ルー氏が提唱した「器官や機能は適度に使えば発達」、使わなければ退化・萎縮」「使い過ぎたら破壊する」という法則を引き合いにして、軽度のスクワットを来場者と実践。回数や時間を調整して自分に適した負荷を掛けながらの筋力アップトレーニングを提唱。また、健康のために、1日30~40分のウオーキング、1万歩の歩行と言われるが、距離・時間だけでなく、速く歩く「速歩」が健康長寿に深く関係することが分かった。

 最後に「余命を元気に生き生き過ごすための工夫や努力は何歳からでもできるし、必要なこと。行政や地域社会を挙げて、健康寿命を延ばしていきたい。きょうの話を聞いて10歳若返ったという人、手を挙げて」と会場を沸かせて講演を締めくくった。