選挙めぐりロシア側と面会
トランプ氏長男がメール公開
ロシア疑惑は新たな段階に入った。後戻りすることはない。
米政府は半年間、トランプ陣営とロシアが昨年の大統領選介入で共謀したという疑惑は、当てこすりに過ぎないと主張してきた。共謀を裏付ける具体的な証拠は提示されていない。
ロシア当局者と何度か会っていたことが、後になって明らかになった。しかし、状況証拠にすぎない。会っていても、そこで何が起きたかが分からなければ、意味はない。何が起きたのかは分かっていなかった。会合の一部は、大勢の人がいる中でたまたま出会った程度のものだった。2016年7月に、キスリャク、セッションズ両氏が共和党全国委員会で軽く言葉を交わしたのはよく知られているが、これもこの偶然の一つだ。だが、重大な出来事だ。
私は困惑している。数多くの隠蔽(いんぺい)が行われたが、犯罪ではない。つまらない空き巣の方がもっと重罪だ。半年間、煙は出ているのに火は見られなかった。確かに、トランプ大統領自身、非常に慎重に行動している。何か隠しているように見える。しかし、何を隠しているのかは誰にも分からない。
私の立場は、共謀と言っても、見てはいないし、具体的証拠があるなら示してくれれば、受け入れるというものだ。
◇提案に乗る愚策
その証拠が示された。うわさ話でも、フェイクニュースでも、出所不明のリークでもない。トランプ大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏が自ら公表した一連の電子メールだ。英国人の仲介人のメールには、ロシア政府はトランプ氏が選挙に勝つよう支援しようとしており、その支援の一環として、ヒラリー・クリントン氏に不利な情報を持っている「ロシア政府の弁護士」との面会を提案すると書かれている。さらに、ロシア政府は、「国家検察官」からの有罪の証拠となる大量の文書を提供するとしている。だが、ロシアにこのような役職は存在しない。
ジュニア氏はこれに、「素晴らしい」と返信した。致命的な言葉だ。
一度受け入れを表明すれば、面会が無意味だったか、仲介人が有益な情報を持っていなかったかは関係ない。重要なのは、ジュニア氏が、面会に行こうと思い、そこにジャレッド・クシュナー氏、当時選対本部議長だったポール・マナフォート氏も招かれ、参席したことだ。マナフォート氏にもこれらのメールは送られていた。
ジュニア氏はFOXニュースのショーン・ハニティー氏に「文字通り、無駄な20分間だった。恥ずかしい」と語った。「恥ずかしい」と言ったが、実際にはその逆。ラッキーだったと言うべきだ。この弁護士が、本当に情報を持ち、提供していたら、ジュニア氏らに関する法的な問題はさらに面倒なものになっていた。共謀する能力もなく、未熟で、失敗に終わった。だが、トランプ陣営のトップ3人に共謀の用意があったという事実は消えない。
その後、実際に共謀し、成功させたことが明らかになる可能性も出てくる。誰も知らない。しかし、何も見つからなくても、これは大変不利な証拠となる。
◇ばかげた言い訳
米国人はいつも他国の選挙に干渉していて、今回はこちらが干渉されたと抗議するトランプ氏側の言い訳はばかげている。米国の選挙介入は、共産主義者らが権力を握らないよう中央情報局(CIA)がフランスとイタリアに介入した1940年代、50年代にまでさかのぼるまでもない。オバマ政権が、ベンヤミン・ネタニヤフ氏を負かそうとイスラエルの選挙に露骨に介入したのはつい最近のことだ。ロシア議会選での米国の支援を受けた組織の活動もこれに加えていいだろう。これを機に、ウラジーミル・プーチン氏は、当時国務長官だったヒラリー・クリントン氏に強い敵意を持つようになり、野党勢力を組織化したと非難している。
この言い訳がばかげているのには2つの理由がある。まず、トランプ氏周辺は半年間、共謀は全くなかったと言ってきたこと。にもかかわらず今になって、確かに共謀はあったが、それがどうした、皆やっていることだと言う。
こんなことを涼しい顔をして言える人物が信用できるだろうか。
2点目は、皆がしているわけではないということ。インディアナ州で行われた調査を受け入れるのも一つだが、これにロシアは関与していない。ロシアは、ジョージア、クリミア、ウクライナ東部など近隣諸国への侵入を繰り返し、公海上で米国の航空機や船舶を脅かし、世界中で米国のなすことすべてに反対してきた。ロシア政府は先週、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射を行った北朝鮮への国連の追加制裁に反対し、葬り去った。
米国の選挙への他国の介入を助けたことを罰する法律はない。ジュニア氏が、クシュナー氏、マナフォート氏とともにしたことは、犯罪ではないかもしれない。しかし、単に愚かな行為というだけでなく、完全に間違っている。国民として守るべき道徳規範に完全に反している。
実行されていない共謀が合法か非合法かの判断は、弁護士らに任せる。だが、共謀は、民主党が選挙敗北の辻褄(つじつま)をを合わせようと必死に考え出した作り話だというトランプ氏側の主張は、完全に意味を失った。
(チャールズ・クラウトハマー、7月14日)