ドイツ同性婚法、下院では可決

 ドイツ連邦議会(下院)で先月30日、同性愛者の婚姻を認める法案(全ての人のための婚姻)の採決が実施され、賛成393票、反対226票、棄権4票の賛成多数で可決された。連邦参議院(上院)の審議後、年内にも同性婚が施行される予定だが、同性婚の導入でドイツ基本法の修正が必要となるかで政党間で意見が分かれてきた。
(ウィーン・小川 敏)

「男女の婚姻」憲法裁で審議へ
4選狙うメルケル首相、豹変

 ドイツではこれまで社会民主党(SPD)と「同盟90/緑の党」の連立政権時代の2001年に採決された「登録パートナーシップ」が施行中で、養子権は認められていない。

メルケル氏

8日、20カ国・地域(G20)首脳会議後に記者会見するメルケル・ドイツ首相(EPA=時事)

 メルケル首相が率いる与党「キリスト教民主同盟」(CDU)は党としては同性婚に反対してきたが、連邦議会の採決では75人の同党議員が賛成に回った(メルケル首相自身は反対票)。

 一方、SPD、「同盟90/緑の党」、左翼党は同性婚導入を積極的に支持してきた経緯がある。

 そこで、ドイツで夏季休暇入り直前、同性婚法案が突然、連邦議会最終日の議題となり、可決された。

 メルケル独首相は既に12年間、政権を担当している。その発言や対応で“ドイツの母親”と呼ばれるほど国民から尊敬を受けている。15年秋の難民殺到時ウエルカム政策では与野党から批判にさらされたが、それでも難民受け入れの上限設定を拒否するなど、そのブレない政策には一定の評価がある。ドイツ経済の順調な発展を受け、メルケル首相は、師匠コール元首相の16年間という最長記録更新を視野に9月の連邦議会選挙で4選を目指す。

 そのメルケル首相が先月26日、突然、同性婚の公認問題に対して、「党の強制的縛り」を解除し、各議員の良心的判断に委ねると言明したのだ。

 メルケル首相の豹変の背後には、①対抗政党、SPDが党大会で同性婚導入の早期実現を選挙公約に掲げたこと②SPD、「同盟90/緑の党」、左翼党は「同性婚に反対する政党とは連立交渉に応じない」と表明したこと―などが考えられる。

 問題はその後の展開だ。メルケル首相にとって同性婚問題への党拘束の解除を表明すればよかった。それ以上でもそれ以下でもなかったはずだ。同性婚問題への対応は9月24日の連邦議会選挙後にすればいいと安易に考えていた。しかし、SPDがこのチャンスを逃さず、「連邦議会の会期最後の日に同性婚問題に関する関連法案の採決を実施する」と言い出し、「緑の党」、左翼党などの支持を受けて先月30日、連邦議会で同性婚の是非を問う関連法案に対する採決が実施され、採択されたわけだ。

 その急展開にメルケル首相自身も驚いただろう。同性婚に対する党拘束の解除を表明したメルケル首相の意図を素早く見抜き、時を逃さず同性婚採決の道を選んだシュルツSPD党首の明らかな勝利だ。

 ところが、同性婚法案が可決された直後から「同法案が婚姻に関する基本法(憲法に該当)6条に反する」という声が出てきた。

 連邦議会にまだ議席を有しない新党の極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は同性婚法案の可決を受け、連邦憲法裁判所にその無効を訴えた。AfDのアレクサンダー・ガウランド氏は、「同性間の婚姻を認めることはドイツ社会の共通の価値観を損なう危険性がある」と説明している。

 メルケル首相のCDU内からも「同性婚は基本法に反する」という声が高まってきたのだ。カール・エルンスト・トーマス・デメジエール内相(CDU)は「同性婚法案を施行するためには基本法の改正が必要だ。なぜならば、婚姻は男と女の間の結び付きを前提としているからだ」と指摘。

 独週刊誌シュピーゲルによると、元連邦憲法裁判所長官、ハンス・ユルゲン・パピアー氏は、「同性婚を認めることは憲法違反になる。同性婚を認めるのならば、基本法6条をまず改正しなければならない」とはっきりと指摘している。

 ドイツ基本法6条は「婚姻、家族、非摘出子」について記述している。「婚姻と家族は国家秩序の特別な保護を受ける」と明記し、「母親は共同社会の保護と扶助を求める権利を有している」と述べている。男と女の間の婚姻を前提条件としていることが分かる。

 ドイツ民法1353条では、「婚姻は男と女の一夫一婦制の生活共同体」と定義し、婚姻の権利と義務が記述されている。

 一方で、基本法3条には「全ての人間は法の前で平等だ」と明記されているから、同性愛者の権利も当然含まれている、という解釈も成り立つ。

 いずれにしても、同性婚法が実際に施行されるまでには、難しい憲法論争が待っているわけだ。