自主防衛力の増強進めよ
拓殖大学海外事情研究所所長 川上高司氏に聞く(下)
日本は「トランプ時代」をどう生き抜くべきか。
現在、次期中期防衛力整備計画の策定と防衛大綱の見直しに向け、侃々諤々(かんかんがくがく)の論争が行われている。その中核は、日米同盟だけで日本の安全を本当に守れるのか、という議論だ。
もちろん日米同盟は重要だ。だが、自主防衛の方向に力を入れないと、日本の防衛は成り立たなくなってきている。国防費を大幅に削減したオバマ政権時代から、米軍の前方展開が手薄になる方向性は見えていた。トランプ政権では、それがさらに顕著になる可能性がある。
自衛隊の防衛体制や装備体系を見れば、米軍と一緒でなければ戦えないのが現状だ。特に、航空自衛隊と海上自衛隊がそうだ。米国の情報・監視能力がなければ、空自のF35戦闘機はステルス性能を発揮できないし、イージス艦もミサイル防衛の迎撃ミサイルを発射できない。
米国が中国とディール(取引)をしてしまったら、米軍がこの地域の防衛にますます関与しなくなる恐れがある。そうなったらどうしようもなくなる。今から自分の国は自分で守るシステムに変えていかないといけない。
北朝鮮の脅威に対処するため、ミサイル防衛態勢の強化が検討されている。
陸上配備型イージスシステム「イージス・アショア」か米最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の導入が検討されているが、ミサイル防衛は膨大な費用が掛かる。それよりも自衛隊の足腰を強くするために、人員を増やしたり、継戦能力を高める装備を購入する方が絶対に大切であり、そちらに予算を回すべきだ。
北朝鮮が短距離ミサイル「スカッド」や中距離ミサイル「ノドン」を飽和攻撃してきた場合、日本に何十発も同時に飛んで来るに違いない。イージス・アショアとイージス艦搭載ミサイル「SM3」、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)で撃ち落とせるのは数十発。残る数十発は防げない。そのうち1発でも核弾頭付きのミサイルが落ちたら甚大な被害が生じる。ミサイル防衛が抑止力にならないことは間違いない。
抑止力を持つには。
故ケネス・ウォルツ米カリフォルニア大学バークリー校名誉教授ら多くの学者が主張しているように、抑止力は懲罰的な抑止力で成り立つ。懲罰的抑止力を持つには、対敵基地攻撃能力を保有したり、日本に米国の核を持ち込ませることなどが必要だ。
日本が核武装するのはほぼ不可能だ。北大西洋条約機構(NATO)の非核保有国は、米国とのニュークリア・シェアリング(核の共有)によって一定の核抑止力を持っている。日本もそのようなことをしなければ、北朝鮮に対する抑止力は持てない。
日本の周辺で核を保有しているのは、北朝鮮だけでない。中国とロシアもいる。両国の方がより大きな脅威だ。
日本が今後も抑止力を持たずにいたらどうなるか。トランプ氏が中国とディールをして、米軍の抑止力が低下すれば、中国の覇権が強くなり、日本も台湾のように中国の勢力圏にのみ込まれていく。
われわれ日本人がそれを認めるかどうかの選択だ。日本は今、国家存亡に関わる重要な時期に直面している。
憲法9条は抜本的に改正を
憲法9条の改正議論をどう見る。
9条は変えないといけないことは分かっているが、3項を付け加えるだけでいいのか。憲法は国の根幹であり、やはり抜本的な改正をすべきだ。
9条だけでなく前文から書き直すべきだろう。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」というが、北朝鮮は日本を火の海にすると何度も言っている。信頼できる国ではない。
半年後くらいに危機的な状況が日本を襲う可能性が高い。今は国民の約半数が憲法改正に反対だが、その半分くらいが危機に直面して目が覚め、健全な憲法論議ができるようになると私は見ている。
北朝鮮、中国の脅威に対処する上で、沖縄の米軍基地の重要性は。
やはり重要だ。ただ、米国の世界戦略が今後どう変わるか分からない。一方的に米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設をやめると言いだすことも否定できない。グアムも安全ではないと言われており、米軍が沖縄から引いてしまう可能性もある。
日本としては米軍の沖縄駐留がもたらす抑止力を担保するためにも、辺野古移設は淡々と進めるしかない。
(聞き手=編集委員・早川俊行)