ラマダン月でテロ警戒強める仏

非常事態宣言の期間延長

 フランスのマクロン大統領は、英国・マンチェスターで起きた自爆テロ事件を受け、現在出されている非常事態宣言の期間延長と、新たなテロ対策法案を国会に提出することを決めた。この数年間、イスラム過激派によるテロに悩まされているフランスは、欧州内でもテロとの戦いに強いリーダーシップを取る姿勢を打ち出した。
(パリ・安倍雅信)

容疑者監視強化で成果
大統領、EU内の情報共有を

 5月22日に英マンチェスターのコンサート会場で起きた22人が死亡した自爆テロ事件を受け、就任間もないフランスのマクロン大統領は24日、閣議を招集し、7月15日までとしていた非常事態宣言期間を議会承認後、11月1日まで延長する方針を確認した。

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爆弾テロが起きた屋内競技場「マンチェスター・アリーナ」近くで、道路を封鎖し警戒に当たる警察官=23日、英中部マンチェスター(時事)

 期間延長は、政府が提出する新たなテロ治安対策法案が国会で審議され、可決成立するまでの時限的延長としている。同法案は非常事態宣言下で許されていた捜査権限などが平時にも可能となるもので、個人情報保護の見地から反対する意見もあり、審議は紛糾が予想される。非常事態宣言の延長が決まれば6回目の延長となる。

 新たな法案では、大規模な音楽やスポーツイベントでの手荷物・身体検査の徹底などを非常事態宣言が終了後も全国で義務付けるなど、監視が強化される。さらに過激派組織、「イスラム国」(IS)対策として、テロ対策に特化した大統領直轄の「対ISタスクフォース」を夏までに立ち上げるとしている。

 フランスでは2年半前の2015年1月に風刺紙シャルリエブド襲撃テロなどが起きたのを受け、同年7月には裁判所の許可なく、容疑者の個人宅の撮影や盗聴、インターネット上でのやりとりを警察が監視できるようになった。さらに同年11月の同時多発テロ後、疑わしい人物と交友関係を持つ人物へも同様な監視も可能となった。

 さらに2016年4月以降には、仏国鉄や大都市の地下鉄公団の職員による乗客の手荷物検査が可能となり、6月には殺人犯のテロリストに対しては、正当防衛の時以外でも武器使用が認められ、夜間の家宅捜索も許可された。

 同年7月には、南仏ニースの歩道にトラックが突入するテロ事件を受け、当局が安全を確認できない集会は、目的にかかわらず、中止を命じることが可能になった。これらの対策強化により、テロの準備段階で家宅捜索から逮捕までが可能となり、相当数のテロを未然に防ぐことができたとされている。

 大統領選を4月23日に控えた同月18日、当局は「暴力的な攻撃」を計画し、準備を進めていた容疑でフランス国籍の男2人を逮捕した。2人は仏国内治安総局(DGSI)によって過激な聖戦思想を持つ危険人物として把握され、家宅捜索の結果、マルセイユ市内の容疑者のアパートからISの旗や銃数丁、爆薬3キロ、市内の地図などが見つかった。

 フランスでは今年に入り、2月にはパリのルーブル美術館に隣接した地下街で、刃物を持った男が警備中の仏軍兵士ら4人を襲撃する事件が起き、男は襲撃に際し「アラー・アクバル」(アラーは偉大なり)と叫んだ。

 3月には、パリ郊外オルリー空港内で空港内を警備中の兵士の銃を奪い、他の兵士に射殺される事件が発生している。男は「アラーのために死ぬ目的でここにいる」と叫んだ。4月にはパリ・シャンゼリゼ通りで夜、自動小銃を持った男がパトカーに乗っていた警官3人を死傷させる襲撃テロが発生している。

 いずれも容疑者は、フランス国籍を持つアラブ系移民で、当局の監視対象になっていた人物もいた。現在、DGSIの監視対象の危険人物リスト「ファイルS」などに5000人以上が登録されているとされるが、当局の監視能力をはるかに上回っている。

 欧州最大規模のイスラム教徒を抱えるフランスは、今月27日からラマダン月に入っている。終了は6月25日。昨年はラマダン月にテロ攻撃を行うようISが世界に呼び掛けた経緯もあり、警戒を強めている。

 マクロン大統領は、先週イタリアで開催された主要7カ国首脳会議(G7)でも、テロ対策で関連各国の連携の重要さを確認した。今後、同大統領は、欧州連合(EU)規模でのテロ情報の共有強化のための具体的提案を行う見通しだ。