「9条」待ったなしの安保環境
70年前の憲法制定当時に比べると、現在のわが国の社会状況や国際環境は様変わりし、憲法と現実との乖離(かいり)は大きくなっている。国会は衆参両院で、改憲に前向きな勢力が3分の2以上を占める、かつてない良好な状況にある。国防問題はもとより、国家の根幹に関わる他の主要テーマに、政治はどう対応すべきなのか。
憲法改正論議の“本丸”は国家の安全保障に直接関わる第9条だと言える。第2次政権発足時の安倍晋三首相は、第96条改正を主張し改憲発議のハードルを3分の2から過半数に下げようとしたが支持を得られず断念した。一昨年の安保関連法制の成立を受け、最近、首相が最も強調しているのが、この「9条の改正だ」と自民党幹部は指摘した。
内閣府の2015年1月の世論調査で9割以上の国民が自衛隊に「良い印象を持っている」にもかかわらず、いまだに自衛隊合憲・違憲論争に決着が付いていない。
しかも、中国が「尖閣は核心的利益」と明言しながら軍事的挑発をエスカレート。現在、北朝鮮が核・弾道ミサイル開発をめぐって、米韓との間で一触即発の軍事的対峙(たいじ)をしている。北朝鮮の先月29日の弾道ミサイル発射を理由にわが国では新幹線や東京メトロなど一部の鉄道が運転を見合わせた。これほど安全保障情勢が緊迫化している中、この不毛な論争が続いていることに、非常な違和感を感じざるを得ない。
第9条第1項は、国際紛争を解決する手段としては、戦争と武力による威嚇、武力行使を放棄する――とし、第2項では、前項の目的を達成するため、戦力を保持しない――と謳(うた)っている。
しかし、この9条の政府解釈は時代背景とともに変更を繰り返されてきた。制定当初、第1項は自衛および制裁のための戦争等は放棄していないとする立場を取った上で、第2項は無条件に「戦力不保持」を定めたものとした。
そして、保安隊が創設された1952年、「戦力不保持」を維持しながらも、「戦力とは、近代戦争遂行に役立つ程度の装備編成を整えるものをいう」とし、保安隊は戦力に該当しない警察組織だとして、戦力に関する解釈を変えた。
自衛隊トップだった折木良一元統合幕僚長は「安保法制は憲法の枠内ギリギリだ。有事には現場の自衛官は難しい決断を強いられる」と、現行憲法下での防衛の現状に危機感を隠さない。その上で、先制攻撃をも視野に入れ、「専守防衛の見直しが必要だ」とし、憲法改正の必要性を訴える。
そればかりか、今いる陸海空自衛官二十数万人の地位や雇用も常に不安定な状況に置かれている。首相が「君たち(自衛隊)は憲法違反だと言っておきながら、いざという時は命を懸けろ、そんなこと現実問題としてできない」(2月24日衆院財務金融委員会)と共産党議員に切り返したのは当然である。入隊時に、有事には命を懸けると宣誓し、激務に献身的に当たる隊員に対する身分保障やメンタル的な支えとしても、自衛隊を憲法にきちんと位置付けるべきだ。
日本は今、安全保障政策の抜本的見直しが迫られており、その枠組みを規定する9条の改正は待ったなしである。憲法改正の作業は、衆参両院の憲法審査会が取り組むものと国民投票法で定められている。両院の審査会に会長を出している第1党の自民党には、改憲の発議に向けたイニシアチブの発揮が求められる。また他党も9条改正論議をタブー視することなく前向きに取り組むべきである。
(政治部・小松勝彦)





