新政権人事で有利な共和党

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

最高裁判事指名承認へ
民主党、規則変更が裏目

 ニール・ゴーサッチ氏が最高裁判事になることを歓迎する人は多い。ドナルド・トランプ氏の大統領選勝利、ヒラリー・クリントン氏の敗北を歓迎する人も多い。ミッチ・マコネル共和党上院院内総務が、民主党やメディアから激しい反対に遭いながらも、最高裁判事の席を2016年いっぱい空けておいたことも歓迎されている。当然ながら、この点では民主党のハリー・リード氏も感謝されている。

 リード氏に神の祝福あれだ。ゴーサッチ氏の最高裁行きが保証されているのはリード氏のおかげだ。2013年に当時上院で多数派だった民主党院内総務のリード氏が厄介なものを取り払ってくれた。閣僚などの高官と裁判官、最高裁を除く地裁、控訴裁すべての判事職について、連邦政府の任命に対して議事進行妨害をできなくした。こうして障害が取り除かれて、民主党支配の上院によって下級裁判所にオバマ氏指名の判事らが送り込まれた。

 リード氏は、共和党が多数派になり、この新ルールを逆に利用する日が来ると警告されていた。その日が来た。

 結果は見事だ。トランプ氏の閣僚人事は事実上、阻止できない。共和党は51票だけあればいいが、52票ある。議事進行妨害を乗り越えるために必要な60票を獲得する必要はない。民主党は、自力では誰も阻止できない。

 ゴーサッチ氏についても同様だ。だが、議事進行妨害は最高裁判事にはまだ有効なはずだ。確かにそうだが、民主党がそうしようとすると、多数派共和党のマコネル氏は、リード氏がしたのと同じことをし、最高裁についても、「ニュークリアオプション」を行使して議事進行妨害をできなくする。これは誰もが知っていることだ。

 リード氏は、上院に対して犯した自身の罪の重さをよく分かっていない。議論はいろいろあると思うが、当時、私が書いたように、問題は、議事進行妨害を無効にしたことではなく、単純過半数にしたことだ。重要な機関での重要な規則変更は、圧倒的多数の支持を得て実行すべきだ。例えば、憲法の修正には上下両院の3分の2と全米の4分の3の賛成が必要だ。そうしないと統制が取れなくなってしまう。議会で、その日の過半数の賛成があれば重要な規則が変えられるようになれば、規則など無意味になってしまう。

 マコネル氏は、最高裁に関する議事進行妨害を無効にすることで、いつでもリード氏のやり残した作業を完成させられる。しかし、そうはしない。ニュークリアオプションを行使することも、行使すると脅すこともしなかった。何度も求められたが、反応は決まっていた。ゴーサッチ氏は承認される。つまり、必要なら一発投下するということだ。

 そうしたくないことは明らかだ。単純過半数で重要な規則を変更して、再び上院を貶(おとし)め、不安定化させることは誰も望んでいない。だが、リード氏はその前例を作った。

 ここで忘れてならないのは、問題は議事進行妨害そのものではないということだ。神聖なものでも何でもなく、近年では頻繁に使われる。議論は促進され、結果の予測は難しくなくなる。60票が必要となると、極端な主張は難しくなり、譲歩も求められる。圧倒的多数の支持を獲得するには、他党から何票か引っ張ってくる必要があるからだ。ところが、現在のように党派性が非常に強くなっている場合、60票を基準とすると、すべてが止まり、何も動かなくなる。

 議事進行妨害を無効にすることは今の保守派にとってはいいことだ。リベラル派がいつか多数派になれば、リベラル派にとって有利になる。今は大した規則変更は議題になっていない。しかし、現実問題として、議会が行き詰まり、フラストレーションが広がっている今、新たな規則は有益かもしれない。

 だがリード氏が作った前例は有益ではない。民主党は当時の多数派政党として、一時的な、それほど重要でない案件をめぐって長年続いてきた規則を変更した。2015年に言ったように、両党は最終的に、主要な規則変更は、十分な超党派の支持が得られ、圧倒的多数、つまり3分の2が賛成しなければできないようにすべきだ。

 そのような重要な駆け引きをめぐっても、さまざまな対立がある。それ自体がリード氏の後任によって覆されてしまうのではないかという懸念があるからだ。だが、問題があったとしても、協力する方が、今の議会を支配している混乱よりはいい。

 ここで重要なのは「最終的に」ということだ。そのような合意はいずれ交わされる。だが今はできない。共和党を甘く見てはいけない。近視眼的なリード氏が意地を張ってくれたおかげで巡って来たチャンスを共和党は逃さない。今のように議会と大統領職を共和党が押さえている間は、最高裁判事の指名に対してニュークリアオプションを何が何でも維持するはずだ。

 その後、リセットボタンを押す用意をしておくべきだ。しかし、それが最後だ。若いアウグスティヌスが神にこう懇願した話はよく知られている。「高潔さと自制を与えてください。ですが、今すぐにではなく」

(2月3日)