中東和平で実績急ぐオバマ氏
イスラエルに大打撃も
「土地と平和の交換」が原則
文化に関する国連の最高機関、国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、イスラエル(「占領軍」とされている)がエルサレムの「神殿の丘」に不法に侵入し、侵害したとの複数の訴えを受けて、イスラエルを非難する決議を採択した。その上、決議では、ユダヤ教で最も神聖な神殿に対して神殿の丘という言葉を使っていない。イスラム教だけに関連する場所として言及しており、これは、神殿の丘のユダヤ人とユダヤ史との関係を意図的に完全に排除しようとするものであり、中立性をも欠く決議だ。
このジョージ・オーウェルを思わせるような決議は、ユダヤ教ばかりか、キリスト教への冒涜(ぼうとく)でもある。ガリラヤのユダヤ人の物語をつづった福音書を愚弄(ぐろう)している。ユダヤ人はこの聖地、特にエルサレムとそこにある神殿で生き、信仰を実践した。ここがイスラム教だけのものであるというなら、イスラム教が誕生する600年も前に生まれたキリスト教の基礎そのものが揺らぐことになる。
ユネスコの決議は、イスラエル存在の正当性を否定する世界的な運動がそのごとくに現れたにすぎない。これはまさに「ボイコット、投資の引き揚げ、制裁(BDS)」運動であり、欧米の大学の学生の間やプロテスタントの主要教会で高まっている。民主党の支持者の間にも広がっている。
バーニー・サンダース氏は、民主党綱領の中にイスラエルにとってそれ以上に望ましくない項目を盛り込もうとした。結果的には失敗したが、ウィキリークスが暴露した電子メールによると、陣営責任者のロビー・ムック氏は、どうしてクリントン氏が演説でイスラエルに触れるべきなのかとクリントン陣営の顧問数人にただされるとこれに同調し「公的なイベントにイスラエルを出すべきでない。特に民主党の活動家はそうだ」と答えた。民主党活動家にとってイスラエルへの言及は有害以外の何物でもないということだ。
ホワイトハウスは先月のシモン・ペレス氏の葬儀についてのプレスリリースを修正したが、これはどう解釈すべきなのだろう。もともとは葬儀の場所を「イスラエル、エルサレム、マウント・ヘルツル」としていた。修正によって国名の「イスラエル」が消された。
ほかにエルサレムがあるというのだろうか。スリランカか。そればかりか、マウント・ヘルツルのある場所は、議論の的となっている東エルサレムですらない。1967年以前からイスラエルの領内にある西エルサレムにある。
だが、こんな腰の引けたやり方など、オバマ大統領任期終盤にイスラエルが受けたダメージに比べればどうってことはない。民主主義防衛基金のジョン・ハンナ氏が最近、フォーリン・ポリシー誌で指摘したように、この数カ月間、オバマ大統領が国連で、2国家共存へ独自の最終的地位の提案を発表する兆候がある。この案が新安保理決議に盛り込まれれば、イスラエルが1967年の六日戦争で取得した領土にパレスチナ国家が正式に承認される可能性がある。
これまで8人の大統領がこのような動きに反対してきたのには訳がある。中東和平構築の根幹、土地と平和の交換を覆すことになるからだ。この原則の下で、イスラエルとパレスチナは交渉し、境界線で合意し、相互に承認し、紛争の恒久的な終結を宣言、パレスチナは国家を手に入れる。
土地と平和の交換ではなく、無償で土地を与えることになってしまう。事前にパレスチナ国家を承認し、事実上、イスラエルが完全撤収することになれば、パレスチナは交渉への意欲を失い、イスラエルは、エジプトとの和平交渉で使ったような交渉の切り札を失う。
その結果、戦争が恒久化するだけでなく、イスラエルは計り知れないダメージを受ける。一つ例を挙げてみたい。エルサレムのユダヤ人地区は1948年から49年の戦争でアラブ占領軍によって破壊され、ユダヤ人は追い出された。67年以降にイスラエルが再建した。今度は、ユダヤ国家がユダヤ人地区を持つことは、他方の国への犯罪的占領に当たるというばかばかしい非難を受けることになる。
イスラエルは、法廷にいつまでも引きずり出され続け、制裁を科され、ボイコットされ、指導者は逮捕される。このすべてが国連の命令への違反として実施されるが、イスラエル政府は左派であれ右派であれ、受け入れることはないだろう。
オバマ氏はイラン核合意、キューバとの和解を実現させたが、選挙前に、この最後のレガシーを実現しようとすることはないだろう。ヒラリー・クリントン氏に悪影響が及ぶ懸念があるからだ。最後のチャンスは選挙後だ。ハンナ氏によると、これを阻止しようとする人物がいるとすればクリントン氏自身だ。クリントン氏が大統領になった場合に、その手を縛ることになるようなことを任期中にしないようオバマ氏に約束させる。
イスラエルと和平に関心があるクリントン氏の支持者らは、これをすぐにクリントン氏にさせるよう働き掛けるべきだ。あっという間に手遅れになる。オバマ氏は間もなく、イスラエルと、大嫌いなイスラエル首相に衝撃的な捨てぜりふを自由に吐けるようになる。
(10月28日付)