必要最小限の防衛力整備を
自主防衛強化求める米
国民の「平和ボケ」矯正必要
3月末、在米のユニセフ勤務の後輩から、「米国政府も一般市民も日本について、日本人が考えているほどの関心も期待もない。例えば、昨年、安倍総理が渡米し、国会で演説したことなどをテレビニュースでは取り上げてはいない。トランプ氏が対日政策で、沖縄の米軍基地放棄を提案している。今後の日米関係には大いに注意せよ」と、米国の対日政策について憂慮する便りがあった。
次期米国大統領選は共和党トランプ氏と民主党クリントン氏が対決する。両者ともに党内の分裂修復が必要で、米メディア世論調査では、好感度は歴代最低とのことである。
トランプ氏は、米国第一主義、国外への関与縮小を主張し、さらにイスラム教徒の入国禁止などの暴言を繰り返した。日本に関しても、「在日米軍の経費負担を大幅に増額しない限り、米軍を撤退させ、日本の核保有を含め、自主防衛を容認すべきだ」と主張し続けた。米国第一主義が、経済格差に強い不満を持つ大衆の支持を得たようだ。
しかし、4月10日付産経新聞は、「トランプ最高司令官適性は? 日韓核武装発言に批判拡大…でも曲げず」と題して、米FOXニュースで述べた不適の要旨を紹介した。同紙によれば、トランプ氏は、核武装容認発言でオバマ大統領などから強い批判を受けたが、日韓両国や北大西洋条約機構(NATO)の欧州諸国が、米国依存を自粛し、自助努力を強化するよう求めている。日本の核武装も強要しているのではない。米国も北朝鮮の核脅威に半ば巻き込まれている。日本には自主防衛の費用を払わせたいのだ。また、3月に米CNNテレビが行った、トランプ、クリントン両氏のどちらが最高司令官に適当か、との世論調査では、クリントン氏が55%で、トランプ氏より19ポイント優勢であった。さらに、共和党支持の米国の外交・安全保障専門家による「トランプ氏の大統領に反対する」公開書簡の署名も、当初の60人から121人に倍増した。
一方、クリントン氏は元国務長官で、政治外交に精通し、「明確な戦略の下、同盟国との関係を強化する。対中国と北朝鮮の核開発には厳しく対処する」と強調している。
中西輝政京大名誉教授は、4月8日付産経新聞「正論」に「世界を徘徊(はいかい)する妖怪を生んだ米国の戦略的過ち」と題し、次のような要旨を述べている。
「世界を徘徊する三つの妖怪―テロ、大量破壊兵器、トランプ旋風―が人心を不安にしている。トランプ氏は、人種・民族差別や、民主主義の価値観を蔑(ないがし)ろにするような暴言を繰り返している。中でも日本人に不安や動揺を与えているのが、在日米軍の経費負担を大幅に増額しない限り、米軍を撤退させ、米国は日本の核保有を含めた自主防衛を容認すべきだ、との主張である。また、米国だけに負担が偏重した北大西洋条約を見直すべきだとしている。民主党のサンダース候補も共通の認識である。日本の核保有やトランプ氏の唱える孤立主義への回帰偏向は決して、『跳ね返り』の妄言と無視することはできない」
次期大統領は、日本に自主防衛の強化を要求するであろう。日本が戦後70年余も平和を甘受できたのは、米国の抑止力、精強な自衛隊があり、幸運にも恵まれたためであり、平和憲法を妄信し、平和を世界に訴え続けてきたためではない。米国に強要されるまでもなく、米国の保護国化した「平和ボケ」から脱却し、防衛力を強化するとともに集団的自衛権を認め、自主防衛を進めるべきである。
日米安全保障条約第6条は「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国はその陸軍、海軍及び空軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」と宣言している。在日米軍の撤退により、中国は極東制圧のみならず、西太平洋の制海・空権をも獲得しよう。過去、米中両国が交戦したことはないが、両国が太平洋に共存共栄し、日本の独立と平和を保証するだろうか。
我が国は、国防戦略上、重要不可欠な核抑止力、戦略的攻撃戦力を米国に依存し、必要最小限の防衛力を堅持するとしている。換言すれば、自衛隊は本土防衛に徹し、米軍参加までその作戦基盤を確保する時間稼ぎをし、対日侵略に即応した米軍の反撃と共同し、侵略阻止できる防衛力とした。
米国も同盟国の自主的防衛を期待している。評論家の一部には、この機会に在日米軍撤退を容認、負担経費(思いやり1900億円を含み約4000億円)を防衛費に転用し、自力防衛を図れとの意見もあるが、内外の現情勢では、自力単独防衛は不可能である。
従来、対日脅威はソ連で、米国には仮想敵国であり、その対日侵略への対応は、即応したであろう。最近、北鮮の核装備、中国の強大化は対日脅威である。「切れ目なき防衛」を企図して、日米同盟の強化を図るとともに、自主防衛力として、非核、専守防衛両戦略をも再考察すべきである。そのためにも、国民の「平和ボケ」を矯正する必要がある。戦後教育は、戦争の悲惨さのみを説明し、「力なき正義は無効」の原理を無視し、平和を祈り、「不戦の誓い」を奨め、国防を軽視してきた。自主防衛に必要最小限の防衛力を保持するため、自主憲法の制定を急ぐべきである。
(たけだ・ごろう)