トランプ封じ込めの失敗 二極化でメガメディア凋落
豊かな国が格差社会に
いわゆるスーパーチューズデイ(3月1日)の結果を受けて、いよいよ米国に「トランプ大統領」の出現が現実味を帯びてきた動向に危機感を抱いた日米のメガメディアは、こぞって反トランプの論陣を張って国民世論への啓蒙活動を展開し始めた。
しかし現在までのところ、こうしたキャンペーンの成果は一向に上がらず、その後のミニスーパーチューズデイ(3月15日)でも勢いは止まらずトランプ候補の圧勝となり、今や彼は共和党の大統領候補者指名に必要な票数の半分を手にする最有力候補者としての基盤を固めつつある。
こうした「トランプ旋風」の要因として第一に考えられるのは、彼の発言が多くの米国人のホンネを代弁している事情がある。一方で、従来型の政治家たちが並べたてる人権擁護、世界平和、環境保護などの美辞麗句に辟易した国民は、他方では経済停滞や格差社会などの厳しい現実に直面しており、今や米国は現実主義たるホンネ陣営から挑戦を受ける理想主義のタテマエ陣営という構図に彩られている。人権は大事だが難民と心中するのは困ると考えるのは当然の人情であろう。
第二に、中流階層の崩壊と二極社会の出現である。もともと米社会に内在する年齢、所得、性別、学歴、保有資産、人種などによる社会的地位の格差たる分断社会の要素は、国民経済全体としての豊かさを享受できた時代には対立構造として表面化することはなかった。しかし、リーマン・ショック以後の景気の停滞や経済発展の行き詰まりがもたらした不平等な格差社会の現出はこうした中流階層を崩壊させ、本来の二極対立の構図を明確化させてトランプ候補を一方の代弁者に育てたのである。
第三に、より重要な要素として、メガメディアの発言力の凋落(ちょうらく)がある。実際、彼らによるトランプ批判は妥当性の薄弱なものが多い。たとえば、トランプ候補が不法移民の入国を防止するためにメキシコとの国境に壁を作れとの過激発言をしたという報道があったが、同様の壁や鉄条網の柵はすでにポーランド、ハンガリー、オーストリアなどには築かれている。
また、彼を独裁者、人種差別主義者、ヒトラーの再来などと評する日米のメディアがあるが、こうした表現はお世辞にも良識的であるとは言い難い。事程左様に、メガメディアが発信する記事やニュースには、「無知な庶民には分からない危険性を教えてやろう」という傲慢さや思い上がりを感じさせる文言も多く、彼らの「上から目線」に対する読者・視聴者の反発心、すなわち「メディアはカネ持ちとエリートの代弁者だ」という認識を生み出し、むしろその信用を失墜させてしまっている。
タテマエ通じない時代
また、SNSをはじめとする新しいマスコミュニケーションツールの充実は、「上から目線」に対抗する「下から目線」のネットワークを発展させることになった。
ところで、「トランプ旋風」を生みだした米社会の諸要素は日本にも存在するがゆえに、その波が将来的に日本に訪れるのは確実である。よって、どの候補者が大統領になるにせよ、当該人物がいかなる外交政策をおこなうか、それに日本がどう対応すべきかを考えておく必要がある。
その時、日本のメガメディアが相変わらず愛と絆、世界平和、環境、人権などのタテマエに彩られた記事やニュースを報道する理想主義の感覚から脱皮していなければ、米国と同様の二極対立構造が過激に表面化することは確実となり、現在の安定的な日本社会が崩壊する危険性がある。