「世界人権デー」合わせ、いじめ体験を作文朗読で告白

昨年度コンクール最優秀賞受賞の上野百合子さん

 12月10日は「世界人権デー」。「いじめは人権侵害」だとの認識から、国連の世界人権宣言を通して青少年に平和と寛容の精神を教育することを目指す「ユース・フォー・ヒューマンライツ」はNPO法人イマジンとの共催でこのほど、いじめについて考えるイベント「いじめを乗り越えた生徒は語る」を東京都内で開いた。NPO法人再チャレンジ東京が主催する「いじめ・自殺撲滅作文コンクール」で昨年度、最優秀賞を受賞した上野百合子さん(25)による作文朗読を通したいじめ体験の告白や、パネルディスカッションなどが行われた。(社会部・佐藤元国)

「甘えたらいい」に救われる

「世界人権デー」合わせ、いじめ体験を作文朗読で告白

作文の朗読を行う上野百合子さん(中央)=6日、東京都新宿区

 上野さんの作文は冒頭、高校の最寄駅の待合室で、処方され部屋にたまっていた睡眠薬をありったけ飲んだ時の体験から始まった。

 「近づく救急車のサイレンと、駅員さんの声が聞こえる。意識がどんどん薄くなっていく――。『いってきます』と、家を出た時から私はあの駅で死のうと決めていた。私をいじめていたクラスメートがこの駅を通るたびに、私がここで死んだことを思い出して嫌な気持ちになればいい、そんなばかばかしい復讐の気持ちを込めてこの駅を選んだ」

 上野さんのいじめ被害は、中高一貫の女子校(大阪府)の高等部に、受験の成績が一番だったため特待生という形で入学したことから始まった。外部からの受験生が特待生になるのは中学から通う生徒からすればおもしろくない。

 「外のやつがしゃしゃってんで」「頭ええのん鼻にかけてえばってるわ」――。入学してから毎日、そんな言葉を浴びせられたという。

 上野さんは、「最初はからかわれたり、すれ違いざまにクスクスと笑われるだけで済んでいた。しかしそれらは次第に暴言になり、ある時はわざと足を引っ掛けて転ばせたりと、いやがらせでは済まないレベルになっていた。私はこの時ようやく、自分がいじめられているのだと明確に感じた」と語る。

 いじめはその後、エスカレートし、弁当や教科書などがゴミ箱に捨てられた。担任の先生にこの事を話すと、「みんな嫉妬しているだけで悪気はないんだ」と取り合ってくれない。母親にも相談しようと思ったが、ゴミ箱に捨てられたお弁当のことを思い出すと何も言えなくなり、次第に死ぬことを考え始めた。

 そして、駅の待合室で睡眠薬を大量に飲み、待合室の床に倒れたが、その場に居合わせた人たちの迅速な通報もあり一命を取り留めた。その時、倒れた上野さんを親身に介抱してくれたおばあさんが「おばちゃん、いつもこの時間にここにおるねん。しんどなったらおばちゃんとこおいで」と声を掛けてくれた。

 その後、しばらく学校を休むことになった上野さんは、あのおばあさんに会いに何度も駅の待合室を訪れた。そして、学校でいじめられていること、いじわるされても言い返せないことなどを話した。

 その中で、「この世の中にまるっきりひとりぼっちの人なんてな、居れへんねん。だから、もっと誰かに甘えたらええ。辛いことあったら誰かに話してすっきりして、そいで次は誰かが辛そうやったらこっちが話聞いたんねん。それやったら公平やろ。困ったときはみんなお互い様なんや」というおばあさんの言葉などに、上野さんは「私は誰かに大事にされている、いなくなっていい人間なんていない」と教えてもらったという。

 そうした出会いに力を得た上野さんが、最終的に高校の校長先生に直談判したことで、いじめは終わりを告げた。

 第2部のパネルディスカッションに登壇した上野さんは、当時のいじめについて「あまり言い返したりしなかった。親も『言いたい人には言わせておきなさい』と言うので、親にも誰にも相談せず、放っておいていたらひどくなってしまった」と振り返る。また、「学校に相談できる大人がいなかった。いじめについて相談すると、『あなたの責任では』という感じで、これは解決出来なさそうだと自分の中に溜め込んでいく悪循環があった」とも語った。

 ユース・フォー・ヒューマンライツ代表の宮地真澄さんは「教師と生徒の距離感が問題。その間にコミュニケーションがしっかりできるパイプが必要だ」と指摘した。20年近く教鞭を執る現役高校教師の高橋恵子さんは「何らかのSOSが出ているなら、なるべく早く拾い上げることが必要だが、教員が忙しく、その時間や機会を取ることが難しい」と問題点を指摘。その上で、「風通しがよく、主役の生徒たちを大人皆で見ていく体制が必要。開かれた学校の中で、非難するのではなく一緒に歩いてくださる保護者や、地域の方々などサポートしてくれる人が増えるほど、苦しんでいる子供を支えてあげることが出来るのでは」と訴えた。