秋田県「スペース・イオ」開設10年 不登校の児童・生徒支援に成果
ほぼ全員が高校に進学
秋田県が全国に先駆けて平成17年に始めた、不登校の小中学生のための「スペース・イオ(IO)」。この10年で学習面だけでなく、学校になじめない児童生徒の居場所としても役割を果たし、高校進学もほぼ100%と成果を上げている。(市原幸彦)
繊細な子の「大切な居場所」
イオは秋田市の県立秋田明徳館高校内に設置。「学習支援」と「集団適応支援」が大きな柱だ。自学自習、学習指導員の個別指導、一斉授業のほか、対人関係・集団適応能力育成のための体験的活動やソーシャルスキルトレーニングなど、学習プログラムは多様だ。
「所属の小・中学校と連絡を取りながら、それぞれの児童生徒の習熟度に合わせ、さまざまなパターンの授業を行っています」と、県教委は説明する。26年度の利用者は64人。県内の不登校児童・生徒の約1割に当たる。
イオを利用する児童・生徒は▽通学▽通学とインターネットを介した自宅学習(IT学習)を組み合わせる▽IT学習だけを行う―のいずれかを選択できる。IT学習も出席と認められ、在籍する小中学校の出席日数に算入されるのが特徴だ。
通所しやすいように、3階の1教室を衝立で、大きなフリースペースと4人程度のスペース、一人用のスペースの三つに区切った。他に相談室が2室。授業形式の場合は、4階の教室を借りる。
学習支援は、どの教科を、どこから、どのように勉強したいのか、担当の教師と相談し、学習計画を立てることから始まる。個別の学習支援で、自信を回復するとともに学習の仕方を学ぶ。また授業形式は、学校復帰にむけて、基礎学力の充実と一斉授業に慣れることが目的だ。
通えない子供には、FAXやパソコンのメールでプリントを送る。「ネットもうまくできないという子が何人かいることが一つの課題だが、親など回りに手伝ってもらうなど、学校に行ってないので学習していないという思いを少しでも払拭させてあげたい」と県教委。
集団適応支援は、子供同士の触れ合いを通じ、自己肯定感を高め、自分の気持ちを伝えたり、相手の話を聞いたりするスキルを身に付ける。同校の音楽室での音楽鑑賞や楽器の演奏、理科と社会の学習での実験や観察、公園でのフィールドワーク、スポーツなどで、協力し合うことによる目標の達成感、学ぶ楽しさを体験する。
クラブ活動のようなIOクラブもあり、脳トレやゲーム、ギター、小物作り、絵描きなど好きなことを行う。NPOの支援を受けた調理学習なども行う。毎年9月に行う校外学習は、年に一度の大きな行事だ。昨年は田沢湖畔の「たざわこ芸術村」を訪れた。
12月の校内でのクリスマス音楽会では学んできた歌や合奏などを披露。全員で「ふるさと」「赤鼻のトナカイ」を歌い、盛り上がった。イオのOBやOGも参加した。「学校生活になじめないのは、心が繊細であることの表れともいえる。イオは、そうした子供たちの大切な居場所となっている」(県教委)。
在籍する学校に戻れないまま卒業を迎えることが多い。それでも高校進学率は17年度に80%だったのが、26年度には97%に上昇した。県教委は「最近は、高校進学を控えた中3生の利用が半数以上ですが、ほぼ全員が進学できている」と、その成果を強調する。高校に進んでも不登校になるケースもある。それについてはNPOに情報提供し、対応してもらっている。
イオの職員は専門の教諭が3人、教科を指導する学習指導員(非常勤)が8人、カウンセラーが1人の12人。秋田明徳館高校の養護教諭も支援する。20年度、横手市に2カ所目のイオを開設。今後は大館市や仙北市にも設置する予定だ。
県教委は「一人でも多くの子が自信をもって一歩進めることができるように、学習支援という形を通して力になっていきたい。独自に取り組んだこの10年の経験を踏まえ、一層充実したサポートに努めたい」としている。