「地下」に潜る危険ドラッグ、店舗摘発でネット販売に

東京都豊島区、薬物乱用防止デーで教育関係者ら討論

 今月26日は国連の「国際薬物乱用・不正取引防止デー」。これにちなみ、教育関係者らが乱用防止についてのパネルディスカッションを東京都豊島区で行った。聴衆の関心を集めたのはインターネット対策。危険ドラッグが社会問題化したのを受けて、取り締まりが厳しくなって店舗販売は激減したが、その反動で販売手段がネットに移るなどして「地下化」し、ネット利用の機会が多い中高生が手を染める懸念が強まっているからだ。(森田清策)

親子の会話で「心の隙」防ぐ

「地下」に潜る危険ドラッグ、店舗摘発でネット販売に

薬物乱用防止デー・イベントでパネルディスカッションする教育関係者ら=17日、東京都豊島区

 このイベントを主催したのは、学校での講演を中心に薬物乱用防止活動を行っている民間団体「日本薬物対策協会」。同区内の池袋駅前では昨年6月、危険ドラッグを吸った男が車を暴走させて7人が死傷するという事件が起きている。

 開会のあいさつで、同協会世話役の馬崎奈央さんは、危険ドラッグの使用について、小学生の7・2%が「個人の問題で、判断は自由」と回答した調査結果を紹介。「ネットの世界に一歩足を踏み入れれば、薬物についてのさまざまな情報が溢(あふ)れている。中高生のほとんどがスマホを持ち、また小学生でも持つ状況で、薬物の誤った情報・嘘(うそ)が氾濫している情報の海の中に、子供たちは投げ込まれている」と、現状を説明した。

 来賓の高野之夫・豊島区長は「危険ドラッグの店を規制する条例を制定したことで、区内では、店舗がゼロになったが、ネットを利用するなど表に出ない形での乱用が増えている」として、地道な撲滅運動を継続することの重要性を強調した。

 「真の薬物乱用防止に向けて:青少年を取り巻く問題とその解決策」をテーマに行われたパネルディスカッションでもネット利用に注意を呼び掛ける声が続いた。

 元麻薬取締官の浦上厚さんは「危険ドラッグの店舗は昨年の末でほとんど壊滅状態。しかし、これは危険ドラッグがなくなったという意味ではない。覚醒剤と同じように密売状況をたどっている」と、アンダーグランド化する危険ドラッグの流通状況を分析。ネット販売の背後に暴力団の存在があり、スマホを使う若者がターゲットになる危険が高まっていると警鐘を鳴らした。

 子供のスマホ利用対策についての具体的な提言を行ったのは、アルプスシステムインテグレーション・インターネットセキュリティ講師の管野泰彦さん。

 「スマホ、LINEは危険と言っても、若い人はやめない。店舗がゼロになると、もっと恐ろしい状況になる。国交のない海外にサーバーがあると、取り締まりができない」と述べた。

 そこで重要になってくるのが子供のネット利用環境の適切化。「(有害情報を遮断する)フィルタリングをまず付けること。18歳未満は法律で付けることが決まっている。それで93%は、被害を防ぐことができる」と指摘した。

 「教育新聞」編集局次長の池田康文さんは検索エンジンの不適切コンテンツを除外するセーフサーチ機能の利用を奨励した上で、沖縄県教育委員会がネット被害を防止するために「心のフィルタリング」(情報リテラシー)を重視していることを紹介した。

 一方、「ネットで苦労する」と、教育現場での取り組みについて語ったのは、埼玉県立越谷総合技術高校生徒指導主任の長岡邦子さん。保護者から「(子供が)夜中まで使っている」という相談を受けることが多いことから、利用時間を決めるなど、家庭でルールを作ることをアドバイスしているという。

 「それから、使用している内容を必ず家の人に話すようにすることが大切。『高校生だからもう大人』と思わずに、子供が何をやっているのか、親は知る必要がある」と、聴衆に親子の会話の大切さを伝えた。

 また、長岡さんは「小中高で講演活動をしているが、薬物の恐ろしさについては何回聞いても手を出す生徒はいる。それは心に隙間があるから。その隙間は何か。学校や家庭が楽しい生徒は薬物のことは考えない」としながら、家庭、学校、地域のつながりを深めて、大人が積極的に子供に声かけすることを呼び掛けた。

 青少年健全育成に積極的に取り組んでいる豊島区議会議員の古坊知生さんは「地域の人、身近な人に、薬物が個人だけでなく社会をも崩壊させるという真実の姿を伝えて、防波堤のように守っていただく。それが力になる」と、子供たちを地域で見守ることの大切さを訴えた。