露呈したオバマケアのうそ

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

負担増を迫られる国民

既存の保険プランが違法に

 【ワシントン】どんな災厄もいつか必ず、詳細が明らかになる。物理学者リチャード・ファインマン氏がOリングを氷水の中に沈めると、スペースシャトル「チャレンジャー」が爆発した理由を誰もがすぐに理解できた。オバマケアのOリングがフリーズするのを今週、誰もが目撃した。大統領は「今の医療保険プランがいい人は、そのプランを維持できる。それだけのことだ」と10回以上も確約したが、何十万通もの解約の通知がその人々のもとに届いている。

 この解約で、オバマケアの3本の柱があらわになった。①うそ②父権主義③口実だ。

 ①これらの解約通知が、オバマ氏が繰り返し訴えた「保険に入れる」という主張がうそだったことの何よりの証拠だ。なぜこのような通知が出されるのか。オバマケアでは、ワシントンの取締官らが勝手に設定した基準を満たさない場合、その保険プランは違法として継続できなくなるからだ。例えば、妊産婦医療保険がない保険は解約しなければならなくなる。

 保険未加入者を加入させるために作られたはずの法律が、無保険者を生み出している。その数は、サイトが機能していない保険市場へ登録できるとみられる人々よりも多い。実際に、個人保険に加入している1900万人のほとんどは、契約をし直す必要があり、保険料はこれまでより高くなる可能性が高い。さらに数百万人が、職場が提供していた保険を失うことになる。数多くの人々が保険を失うことになる。これがオバマケアの大うそだ。

 オバマ氏は知らなかったのだろう。ひょっとすると傍観者の大統領自身も驚いているのかもしれない。オバマ大統領は、内国歳入庁(IRS)のスキャンダル、AP通信とジェームズ・ローゼン記者の通話記録、オバマケアサイトの不具合、ベンガジの米領事館襲撃が計画的犯行だったこと、メルケル独首相の電話の盗聴を知って驚いたと言っていたのだから、今回もそうなのかもしれない。つまり、どれも連邦政府の仕業であり、オバマ氏はその政府の名目だけのトップということだ。

 だが、私にはそうは思えない。オバマケアによる保険解約の規定は明確にされているからだ。連邦政府が監督し、一本化した国挙げての医療保険の核心だ。

 ならばオバマ氏は、確実にばれるうそをどうやって乗り切るつもりだったのだろうか。

 ベンガジ襲撃事件についてうその説明を2週間続けたのと同じだ。それで何とか乗り越えられると思っていた。

 そして、乗り越えた。やり方は簡単だ。先延ばし、時間稼ぎ、怠惰で保身優先のマスコミが関心を失うのを持つ、これだけだ。

 外部からみれば明らかにうそだと分かるが、そんなことはお構いなしだ。ワシントン・ポスト紙の「ファクトチェッカー」グレン・ケスラー記者は、大統領の主張は「4ピノキオ」つまり大うそだと指摘した。これ以上、鼻は伸びようがないということだ。

 ②「父権主義」というよりも、リベラル父権主義であり、保険の強制解約はその典型的な例だ。カーニー米大統領報道官は、保険を解約してもらうが、それは基準を満たしていないからであり、もっといいものを用意してあると説明した。

 分かるように言い換えると、保険プランを自分で選択し、保険料を支払い、保険を更新し、その保険で納得しているようだが、君たちは未熟すぎて何が必要なのかが分かっていない、だから、解約してもらった、ということになる。

 すべてのプランに関して、国民にとって何が必要かは、国の専門家が決めるということだ。だから、60歳代の夫婦も妊産婦医療保険を契約しなければならない。まったく飲酒しない人も薬物乱用治療保険を契約しなければならない。適正な高額医療保険に入っている28歳の健康な若者も、意味のないオプションプランに保険料を払わなければならない。

 ③「口実」はどうかというと、これらの意味のないオプションプランは、有権者の喜ぶ景品でオバマケア・クリスマスツリーを飾りつけるためだけにあるわけではない。オバマケアは、保険購入者に必要のないものを買わせれば、そのカネがほかの人のところにいくことを計算した上で作られているのだ。

 オバマケアによる富の移転は、近年の米国史上では最大だ。こんなことを言うと選挙で負けるから、言わない。その代わりに口実をつくった。隠れた税、罰金、資産運用委託、追加の支払いを発生させる補償条件だ。

 米国大統領が、政府の予算を1セントも使うことなく3000万人の無保険者を保険に加入させると約束できたのにはこういうからくりがあった。最初から、どこからどこまでいんちきだった。とはいっても、無料ランチはやはり、現代リベラリズムの重要部分を占める。無料の乳がん検診、無料の予防治療、サンドラ・フルークさんの無料の避妊薬などだ。

 保険が解約され、保険料は上がり、控除がべらぼうに増え、国民は、リベラルのおはこの「無料」という言葉の意味を知ることになる。その分は身近にいる誰かに払わせたものだ。そのための口実が必要になる。