岩手県立大看護学部、若い力で被災者を継続支援
学生ボランティア団体「カッキー’S」
東日本大震災からもうすぐ4年になる中、岩手県立大学看護学部(岩手県滝沢市)の学生有志によるボランティア団体が、県沿岸部・山田町の仮設住宅入居者に対して継続的な支援活動を行っている。長期的な支援の一つのモデルとして注目されている。(市原幸彦)
独自考案体操などで健康管理
この団体は「カッキー’S」(カッキーズ)。主な活動は、山田町の仮設住宅3カ所と高齢者施設の小規模多機能施設での月1回のサロン活動。平成23年11月に団体を立ち上げた。正月の餅つきやクリスマスツリーづくりなど季節の催しとともに血圧測定、独自に考案した「カッキー’S体操」、健康講座などを行っている。
山田町は、復興がまだまだ遅れている町の一つ。見えない将来への不安や希望の持てないお年寄りも多い。高血圧、心筋梗塞の患者数が増加する上に、住民の外出減少、コミュニティ崩壊などの問題も顕在化する。その一方で、ボランティア活動は年々減少傾向にある。
地域がこれらの課題を抱える中、カッキー’Sは病気の予防や健康増進、コミュニティ形成を目的として活動する。
「行政では行き届かない部分があり、看護学生の特性を生かした活動となっています。明るくポジティブで、毎回多くの住民が参加し、若者だからこそ生み出せるコミュニティが形成されている」と、看護学部准教授の井上都之(さとし)さんは活動の成果を強調する。
仮設住宅の住民からは「苦しい時もあるけれど、カッキー’Sのみんなとの時間が楽しみ」「震災から月日がたった今もまだ来てくれていることを思うと、涙が出た」といった感謝の声が寄せられている。最近は住民からの提案もあるという。
カッキー’S発足のきっかけは、震災が発生した平成23年秋。大学で開かれた岩手看護学会で、大学OBで山田町の保健師・尾無(おなし)徹さんが学生に心や健康のサポートをするサロン活動をしてほしいと訴えたことだった。震災当時から学生をつれて調査をしていた井上さんも「支援活動をしたい」という学生の思いを形にしたいと考えており、双方のニーズが合致した。
当時2年の学生8人が集まり、大学の予算などのサポートを得て同年11月活動を始めた。「仮設ごとにニーズが違うので、学生たちが試行錯誤しながら自主的に企画しています」と井上さん。
住民も単に「支援を受ける存在」ではなく、学生の成長を支える役割も担っている。参加学生は年々増加し、現在では約90人がメンバー登録し、毎月30~40人が訪問している。
運動神経細胞が侵される難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を学ぶ同町出身の伊藤和也さん(3年)は「寄り添うとはどういうことか、経験が将来生きると思う。ニーズの変化に即し活動を続けたい」と語る。
他大学の支援活動の受け入れも行っている。東京女子医大の看護学部の学生からは救急救命のトレーニングを受けた。医療職を目指す高校生へのキャリア教育としてプレゼンテーションも行い、25年10月から運動器具プロジェクトの募金活動を行っている。
課題もある。井上さんは「一般住宅に住んでいても役場や施設に来れず支援を受けにくい人が本当は重要なのではないか。大人がすると難しいところがあるが、ひょっとして学生だったらうまくいくのではないか」と考えている。今、リウマチで足が悪い高齢の女性を訪問している。職を失い、目が悪い兄と二人暮らしだ。
昨年8月の日本災害看護学会(東京)では、伊藤さんが住民に対する調査結果を発表。OBがカッキー’Sに関する卒業研究を発表した。同年に開かれた世界災害看護学会(北京)でも井上さんが活動を発表し、国内外の専門家の関心を集めた。
井上さんは、教育的効果として以下の点を指摘する。「一つは、学生が大人をケアすることに慣れて、コミュニケーション技術が磨かれること。二つには、ケアしていくにはかかわり続けていくことが必要で、ケアするものの責任感を持つことができる」。
「もう一つはケアの本質にかかわること、つまりケアしつつその相手からもケアされるということ。つねに双方向性で存在し、だからこそケアが成り立つ。そういうことを学ぶことができる」。ほかに団体活動の統率力、企画力などの力もついているという。
「課題は多いが、今できることの限界を認識しつつ活動しつづけていく。こういう活動をほかの看護なりほかの分野の人たちにも広げていきたい。非常にいいモデルだと思う。震災など災害のあとにやっていくモデルとして残していきたい」と、井上さんは意欲的だ。