ロシア通貨ルーブル急落、プーチン大統領会見に厳しい目

危機打開の具体策示せず

旧ソ連「友邦」に離反の動きも

 ウクライナ危機をめぐる欧米の対露経済制裁や原油安を背景に、ロシアの通貨ルーブルの価値が急落し、15日には最安値を更新した。このような中で18日に開かれたプーチン大統領の年次記者会見が注目を集めたが、大統領は危機打開への具体的な方策を示すことはできず、失望感が広がった。ベラルーシやカザフスタンなどロシアの「友邦」とされる国々に離反の動きも見えつつある。(モスクワ支局)

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18日、モスクワで記者会見するプーチン・ロシア大統領
(AFP=時事)

 今年初めの時点でのルーブルの交換レートは、1㌦32ルーブル。それがじりじりと下落し、今月15日には1㌦80ルーブルとなった。

 ルーブル急落の影響が本格化するのはこれからであり、現時点では国民生活への打撃は限定的だ。もっとも重要なことは、国民の間で、これまで「強いロシア」を訴えてきたプーチン政権が、状況をコントロールできなくなったのでは、という不安が広がりつつあることだ。

 だからこそ、18日のプーチン大統領の年次記者会見が大きな関心を集めたのだが、大統領の約3時間にわたる質疑応答には、危機打開への具体的な方策は含まれていなかった。

 年次記者会見でのプーチン大統領の発言を咀嚼し、大まかにまとめると以下のようになる。

(1)1990年代にリベラル派が行ったオーソドックスな経済政策を行う。経済政策は市場に任せるのが最良である。

(2)その一方で、石油や天然ガスなどの国営企業は守り続ける。

(3)経済危機は2年間は続き、ロシアにとって厳しい時期となる。その間に世界経済は回復し、ロシアの石油と天然ガスに対する需要が高まる。米中などによる世界経済牽引(けんいん)がロシア経済の回復をもたらすだろう。

(4)対露経済制裁は欧米の陰謀である。ロシアは石油や天然ガスの輸出に頼る経済構造を改革する必要がある。

(5)ロシアの敵は休むことなく活動し、テロリストたちは軍事拠点をロシア国境付近に築いている。ロシアはこれに備えなければならない。

(6)ウクライナ東部やチェチェンで起きていることについて、ロシアには責任はない。なぜなら我々は平和維持活動をしているだけだから。

(7)ロシアの国産品はどこの物よりも質が良く、国民は輸入品ではなく国産品を求めるだろう。国産品に対する需要は伸び続ける。

――などだ。

 結局、この年次記者会見は、プーチン大統領が経済危機克服への具体策を持ち合わせていないことを示した形となった。19日付の経済紙ベドモスチは、「従来の演説と代わり映えせず、センセーションはない」と切り捨てた。

 また、プーチン大統領は、現在の経済状況が好転するまで「(最大でも)2年」と述べたが、これを人々は、経済危機が2年間は続く、との意味として受け取った。

 ルーブルはその後持ち直し、23日には1㌦55ルーブルまで戻した。有力紙コメルサントが消息筋の話として伝えたところによると、政府が国営輸出企業に対し、外貨建て収入の一部売却を義務付けたという。ロシア中銀は外為市場の安定化のため、輸出会社と協議を行っていることを明らかにした。

 もっとも、オバマ大統領は18日、ロシアに対する経済制裁強化を可能にする法案に署名し、19日には、ロシアが編入したクリミア半島に対する禁輸制裁を大統領令により発動した。欧州連合(EU)も18日、クリミアに対する禁輸制裁措置を発動している。ロシアに対する経済的締め付けは一段と強化される方向にあり、ロシア政府が輸出企業にドルを売らせても、その効果は限定的だ。

 一方、ルーブル暴落でロシア経済が危機的な状態に陥ったことを受け、ロシアの「友邦」に離反の動きも見えつつある。ロシアが主導し来年1月に発足予定の「ユーラシア経済同盟」の参加国であるベラルーシのルカシェンコ大統領は18日、対露貿易をルーブル決済からユーロかドル決済に変更するよう、自国政府に指示した。また、輸出先としてロシアを頼りにするのはやめ、新たな輸出市場の開拓を行うこともあわせて政府に要求した。

 同じく「ユーラシア経済同盟」の参加国であるカザフスタンのナザルバエフ大統領は22日、ウクライナのポロシェンコ大統領と会談し、ウクライナへの石炭供給や軍事技術協力の再開などで合意し、ウクライナを支援する姿勢を明確にした。

 カザフスタンもベラルーシも、国内に多くのロシア系住民を抱える。「ロシア系住民保護」を名目にしたクリミア半島編入を目の当たりにし、警戒感を高めるのは当然だろう。

 ロシアの経済危機が深刻化し、国民生活に大きな影響が出始めれば、クリミア併合による国民の熱狂も急激に冷めていくだろう。プーチン政権は袋小路に入りつつある。