酪農郷の魅力生かす山村留学
岩手・葛巻高で来年度スタート
岩手県葛巻(くずまき)町は、町内唯一の高校、県立葛巻高(全日制普通科、梅津久仁宏校長、126人)の平成27年度の新入生確保に向け、「山村留学制度」を設けることを10月、発表した。全国から希望者を募集し、授業とは別に、町内関係機関がさまざまな体験メニューを用意して農村機能を学んでもらう。全国的にも珍しい事業だ。(市原幸彦)
全国から生徒募集 町をあげて支援
葛巻町は岩手県内陸北部に位置する。人より牛が多い。人口7000人に対して1万頭おり、東北一の酪農郷と言われている。山ぶどうによるワインの生産も盛んだ。風力、太陽光、バイオマスなどによる発電も行い、クリーンエネルギー開発を進めていることでも知られる。
過疎化に伴う入学者減少の中、こうした町の特徴を生かして「高校存続」を図ろうという行政の強い思いから始まったのが葛巻高の山村留学制度。「町としてできることは全てやる」と鈴木重男町長の決意も固い。
同町の核の一つが、日本一と言われる公共牧場「くずまき高原牧場」(第3セクターの同町畜産開発公社)で、体験学習の主要な場の一つとなる。ホテル、チーズ・バターなどの酪農製品の生産、森のようちえん、スノーワンダーランドなど多角経営を行っており、全国から来場している。
「教育のレベルアップも図るが、目玉としているのは体験教育です。高原牧場を体験した若者が大学などを卒業したあと、手伝いたいと申し出ることも多い。葛巻だからできる、葛巻でしかできない、そういう魅力を生かしたい。学力向上だけを目指した教育と違った何かを感じ、子供たちに生きる力をつけてほしい」と同町政策秘書課の丹内勉課長。
山村留学は▽自然体験▽酪農▽イベント参加▽特産品開発▽実践講習―などの研修を想定。授業時間外に実施し、週末や長期休暇を活用したメニューも用意する。
イベント事業体験として各イベントなどにスタッフとして参画し、企画や運営などのノウハウを学ぶ。実践講習では消防署、産直店、JA葛巻、教育施設、森林・畜産業など町の第一線で活躍する「プロの仕事師」による講習を行う。
くずまきワイン国際交流推進協議会主催の欧州視察(ドイツ研修)は、同校に入学を希望する要因の一つだ。10年前から始まった約10日間の研修で、毎年5人が参加。ホームステイやホストファミリーとの交流、現地の学校体験、ワイン醸造所をはじめ、各所の見学など貴重な体験ができる。自己負担は5万円程度という。
同校を支援する町ぐるみの活動も盛んで、今月5日には同校PTAが平成26年度岩手県教育表彰(事業顕著者)の社会教育分野の表彰を受けた。
山村留学は最初は年間5人程度の受け入れを見込む。牧場内の宿泊施設・くずまき交流館プラトーの客室を寮として利用し、学校まではバスを運行(約30分)。食事は年間を通じて毎日3食を提供。寮費は月額2万円程度とし、受け入れが進んだ場合は学生寮整備も検討する。
「通常は月6万円ですが4万円を町が補助。夏休みなどには帰省もできるように柔軟に対応したい」と丹内課長。
町独自の奨学金制度もあり同校就学から卒業後の進学まで学資を貸与しているが、今後は進学先の拡充、段階的な償還免除規定の新設などのほか、学力向上、就学関係費に係わる補助金の拡充なども図る。
学力向上のための施策として町営塾を設ける。民間進学塾と連携し、講師派遣や夏休みの集中講義などを行って、都市部との環境格差を縮める「高レベルの学習」のニーズにも対応する。同校の定員80人(2学級)に対し、町の近年の中学校卒業生は50人前後で推移し、約6割が同校へ進学。昨年度の進学率・就職率は100%だが、人口減で今後の増加は難しいことから同事業に踏み切った。
県教委は山村留学について▽町が地域振興のために考えたもので、県として支援する必要がある▽食事や住宅確保、送迎など生徒の支援に十分配慮している―と判断。「特別な事由」として一家転住がなくても県外から同校の一般入試への出願を認め、支援する方針を決めた。
すでに問い合わせは来ているという。丹内課長は「今地方の時代と言われていますが、町長は、町の自立のためには医療と教育は絶対に守るという強い信念をもっている。そういった思いを受けた事業ですので、町をあげてしっかりと取り組んで進めていきたい」と語る。