過激派復活はオバマ氏のせい

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

米軍イラク撤退の代価

300人の軍事顧問を派遣

 【ワシントン】ジョージ・W・ブッシュ氏が大統領に就任した時、イラクにアルカイダはいなかった。これは事実だ。オバマ大統領が就任した時、イラクにはアルカイダはほとんど残っていなかった。これも事実だ。

 これは、ブッシュ氏がイラクで多大な犠牲を払った結果だ。イラクに侵攻し、2003年から09年まで聖戦主義者らと戦った。これらの犠牲が必要だったかどうかをめぐる議論が終わることはないだろう。しかし、オバマ大統領就任前に壊滅状態にあったイスラム主義武装勢力が復活したのは、オバマ氏のせいであることに議論の余地はない。

 イラクのアルカイダは09年までに、米軍の増派と「アンバル覚醒評議会」によって駆逐され、住民の支持を失った。スンニ派は屈辱を受け、80年にわたるスンニ派の支配を覆した米軍と激しく戦った。その後これは逆転し、アルカイダを粉砕し、放逐するために異教徒の侵略者と手を組むようになった。

 シーア派のマリキ首相は、南のバスラから北のバグダッドまでの全域で、イラク軍を過激なシーア派民兵へと差し向けた。

 その結果、「主権を持ち、安定し、自立したイラク」が実現した。この言葉は、ブッシュ氏が自身の功績を自賛して言ったものではない。11年12月に米軍をイラクから撤退させたオバマ氏が言った言葉だ。「並外れた偉業」とも言った。

 オバマ氏は、その偉業を捨て去った。デービッド・ペトレアス司令官は戦争に勝った。オバマ氏の仕事は、イラクと地位協定(SOFA)を交わし、この勝利の基盤を固めることだった。現在、アフガニスタンと地位協定交渉を進めているオバマ氏が認めているように、このような合意は必要だ。この戦争によって達成し「大きな犠牲を払って獲得した勝利を守りたい」からだ。

 だが、イラクでは地位協定で失敗し、大変な参事を招いた。米兵への免責で合意を取り付けることができなかったというのが、オバマ氏の言い訳だ。ばかげている。ブッシュ氏は、08年SOFAで合意している。米国は他のどの同盟国ともそうしてきた。本当の問題は、オバマ氏がイラクに大規模な米軍を駐留させたくないと思っていたことにある。

 オバマ氏は、3000人から5000人を駐留させるというあり得ないような提案をした。米軍指揮官らは、2万人が必要だと言っていた。韓国駐留米軍は2万8500人、日本は3万8000人だ。このような小規模な部隊では、自衛だけで精いっぱいだろう。イラクの人々はこの提案を見て、米国が本気でないことが分かった。ならばどうして、この印ばかりの米軍駐留継続に対してイラクが政治的責任を持つ必要があるだろうか。

 さらに、歴史家マックス・ブート氏が指摘したように、オバマ氏は議会の批准が必要だと主張した。イラクは、できるはずはないし、必要もないと主張していた。そしてオバマ氏は完全撤退を命じた。その結果、米国は影響力を失い、宗派対立を抑えることも、各派間を取り持つことも、イラク軍に情報や戦術的助言をすることもできなくなった。

 これは予測できたことだ。実際に予想されていた。あっという間に、イランとシーア派が、イラク国内を支配するようになった。米軍撤退の直後、マリキ氏はスンニ派の副大統領の逮捕を命じた。米軍とともにアルカイダと戦ってきた「イラクの息子たち」への資金も絶った。結果的に、スンニ派を迫害し、排除し、「イラクの聖戦アルカイダ組織」が復活する素地が整った。シリアに避難していた過激派が「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」と名前を変えて帰ってきたのだ。ISISはあっという間に、イラクで勢力を拡大した。

 聖戦主義者らの復活は、オバマ氏が二つの点で放棄した結果だ。イラクとシリアの両方に力の空白を作り出した。オバマ氏は、シリア革命の初期、ためらい、行動しなかった。聖戦主義者らはまだシリアにはおらず、世俗的な反政府組織がアサド政権に迫っていた。

 ヒズボラ、イラン、ロシアは、政権を支援した。一方で、イラクの聖戦アルカイダ組織の残党を含む聖戦主義者の少数集団が、シリアの北部と東部での支配を強めていった。世俗組織が米国の支援を受けられず苦戦している間に、聖戦主義者らは外部からの大規模な支援を受けて成長した。

 両国にまたがる事実上の聖戦国家の出現にオバマ氏は驚いたが、選択肢はあまりなく、一夜漬けで、何もないところから米軍のプレゼンスを再び構築しようとし始めた。情報、戦術的助言であり、場合によっては航空支援もあり得る。3年前にすべて放棄したものだ。

 19日に300人の軍事顧問の派遣を表明した。これは再構築の手始めだ。地味だが、オバマ氏ができることはこれしかない。一度失った影響力を取り戻すのは難しい。しかし、これが、スンニ派聖戦主義者ISISとイランのシーア派聖戦主義者からイラクを守る唯一の道だ。