中国に脅され台湾軽視か 韓国
閣僚講演ドタキャンで露呈
「懐柔通じる唯一の国」
韓国政府機関の会合にオンラインで招待されていた台湾の唐鳳(オードリー・タン)デジタル担当相が、予定されていた講演を当日になって突然キャンセルされた問題で、中国の顔色をうかがう文在寅政権の姿勢が改めて浮き彫りになっている。世界の民主主義陣営が台湾擁護路線を鮮明にする中、中国にとって韓国は懐柔しやすい相手国に映っている可能性がある。
(ソウル・上田勇実)
中台有事への態度も曖昧
台湾外交部などによると、唐鳳氏は今月16日に文政権が設立した「第4次産業革命委員会」が主催する会合で、台湾のデジタル化改革について講演する予定だったが、当日の朝、講演開始のわずか1時間余り前に韓国側がメールで唐氏の事務所にキャンセルの意向を伝えてきた。台湾メディアによると、理由は「両岸(中台)関係をめぐるさまざまな点を考慮した」ためだったという。
これに先立ち唐氏は今月10日、バイデン米大統領主催の「民主主義サミット」にオンラインで参加し、「台湾は常に世界で権威主義と対抗する最前線に立ってきた」などと述べ、世界各地で覇権主義が問題になっている中国を暗に批判していた。
台湾外交部は韓国の駐台北代表部の代理代表を呼び、「礼儀を欠く行為だ」として「強烈な不満」を伝えた。数カ月前に決まっていた閣僚の演説を当日になって一方的にキャンセルしたのだから当然だろう。
突然のキャンセルは、前週の「民主主義サミット」で中国を刺激した唐氏が韓国政府の行事で講演することに中国が反対し、韓国に圧力をかけてきたためとの見方が広がっている。韓国の青瓦台(大統領府)は中国を意識した措置ではないと述べたが、中国の圧力以外に納得できる理由があるとも思えない。
韓国は文政権下の2017年、北朝鮮のミサイルを迎撃するため韓国中部の星州(慶尚北道)に配備された在韓米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)をめぐり、これに反発した中国から主権侵害とも言える理不尽な3項目の約束をさせられたと言われる。3項目とは、①THAADの追加配備はしない②日米主導のミサイル防衛(MD)に参加しない③日米韓の防衛協力を軍事同盟に格上げしない――である。
文政権は発足時から対中低姿勢が目立った。米中覇権争いの中で「安保は米国と、経済は中国と」という分野別に重視する相手国を変える、いわゆるバランス外交をモットーとした。これに加え朝鮮半島の平和定着という政権最大の目標を達成する上で中国の協力が不可欠という認識を強く持っていると言われる。
その結果、中国による新疆ウイグル自治区や香港、内モンゴル自治区などに対する弾圧など深刻な人権侵害問題に積極的に異を唱えようとはせず、日米豪印4カ国の戦略的枠組み「クアッド」など対中包囲網への参加意思も意図的に曖昧にしてきた。「もはや民主主義陣営の責任ある一員としての姿ではない」という厳しい見方も出ている。
逆に中国は「安保上の利害が対立する周辺国の中で、懐柔と脅迫が通用する国は韓国しかないと信じており、力を注いだ分だけ効果が得られるという期待を抱いている」(元韓国政府高官)ようだ。
韓国の徐旭・国防相は先日、ソウルでオースティン米国防長官と安保協議会を行い、その後の共同記者会見で、安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有事であり、日米同盟にとっても有事」と発言したことに対する見解を問われると、「今回の協議は特定国の脅威を想定したものではない」と答えた。
「中国が台湾を軍事的に攻撃し陥落させたら、韓国にとっても国家生存を左右する深刻な脅威になり得る」(韓国メディア)はずだが、文政権は「中国を刺激したくない」思いが先立つようだ。