「日本の新進作家」展 記憶は地に沁み、風を越え


東京都写真美術館で、可能性に挑戦する創造的精神を支援

「日本の新進作家」展 記憶は地に沁み、風を越え

小森はるか+瀬尾夏美《山つなみ、雨間の語らい》2021年、インスタレーション(増子耕一撮影)

 東京都写真美術館で、18回目の「日本の新進作家」展として、作家5組6人による「記憶は地に沁み、風を越え」が開催中だ(1月23日まで)。写真・映像の可能性に挑戦する創造的精神を支援しての企画だが、すでに業績のある実力者たち。

 共通するテーマは、詩のような題名「記憶は地に沁み、風を越え」に込められたビジョンだ。土地の記憶を見詰め、変化し続ける現在と向き合い、作家たちは境界を超えて思いをつなぐ。

 吉田志穂さんは1992年、千葉県生まれ。2014年東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。制作手法は、まずインターネットの画像検索によって被写体となる場所を探し、その後、実際に出掛けて行って撮影。デジタルとアナログを行き来して、そこで起きた出来事を呼び起こす。

 〈砂の下の鯨〉シリーズは、生まれ育った土地の海岸が舞台。知っているはずの場所に見慣れない四角い囲いを見つけた。2年半前、そこに鯨が漂着し、骨格標本にするために一時的に囲いの中に埋められているという。鯨の縞模様を描く砂紋があり、下に鯨がいる。不可視の鯨が時空間の多層性を物語る。

 潘逸舟さんは1987年、中国の上海生まれで、9歳の時に日本に移住、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。2020年「日産アートアワード」グランプリ受賞。

 生い立ちのゆえに移住や異郷、帰属意識という問題意識が込められていて、物語は生まれた所から始まるが、同時に離れていこうとする。それを象徴するのが出品作《トウモロコシ畑を編む》(2021年)だ。初めて訪れた山東省のトウモロコシ畑が舞台で、作者は密集する背の高いトウモロコシの中を編むように歩く。畑の中に消えたり、現れたりし、編み物の映像と併せて、編む者と編まれる物とがドラマをつくる。

 小森はるかさん(映像作家、1989年生まれ)と瀬尾夏美さん(アーティスト、1988年生まれ)は、2011年3月、東日本大震災にボランティアとして二人で赴いたことをきっかけにユニットを結成。15年、陸前高田から仙台に拠点を移し、一般社団法人NOOKを設立。各地で対話の場をつくりつつ、風景と人々の言葉を基に制作。

 インスタレーション《山つなみ、雨間の語らい》は19年10月、台風19号によって浸水と土砂崩れを起こした宮城県丸森町が舞台だ。被災した風景や、経験した人たちの言葉だけでなく、民話や戦争中の記憶、被災前の写真なども加えて、風景を「忘却の渕から」救い出そうとする。

 池田宏さんは佐賀県に生まれ、大阪外国語大学外国語学部スワヒリ語科卒業。20年日本写真協会賞新人賞を受賞。08年から北海道に通い、アイヌの人々の肖像を撮影しているが、ロケーションはさまざま。先住民族と枠ではくくれない個人を対象に、ひたすら向き合ってきた。

 山元彩香さんは1983年、兵庫県生まれ。京都精華大学芸術学部造形学科洋画コースを卒業。04年米国に留学し、写真の制作を始めた。東欧やアフリカ各地を旅して少女たちを撮影。そこに暮らしている人々を土地のポートレートのように感じ、思考や蓄積された時間のレイヤーが取り払われた時、人が宿している根源的な何かに触れるのだ。19年さがみはら写真新人奨励賞を受賞。

 新しい感性と思考で充満した写真展だ。

(増子耕一)