【社説】北ミサイル発射 核強国への道歩ませるな


北朝鮮がまたしてもミサイルを発射した。今回は2発とみられ、そのうち1発は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と推定される短距離弾道ミサイルで、東部の咸鏡南道・新浦の沖から日本海に向け発射された。変則的な軌道を描きながら高度約50㌔に達し、約600㌔離れた日本の排他的経済水域(EEZ)の外側に落下した。日本は北朝鮮が着々と進めるミサイル開発にどう向き合うのか。深刻な問題に直面している。
 
対米交渉で主導権狙い

 今年に入って北朝鮮が弾道ミサイルを発射したのは、それと推定されるものを含め今回で4回目。先月以降は巡航ミサイルや列車搭載型ミサイル、極超音速ミサイルなどを立て続けに発射している。

9月11、12両日に北朝鮮の国防科学院が行った新型長距離巡航ミサイルの発射実験(朝鮮通信・時事)

 北朝鮮が多種多様なミサイルの発射実験を繰り返すのは、今年1月の第8回党大会で強調していた核強国としての武力増強を実現させるためのものだろう。その時言及した核搭載の多弾頭長距離弾道ミサイルや原子力潜水艦も、いずれ登場するかもしれない。

 政府は今回のSLBMについて新型だとする見方を明らかにした。今月の朝鮮労働党創立記念日に合わせて開かれた国防発展展覧会に展示されていた小型SLBMと同一の可能性があるとの指摘も上がっている。北朝鮮の国営メディアも「多くの進化した制御・誘導技術が導入された」と強調している。

 北朝鮮がミサイルの種類を増やし、かつ性能を向上させたと誇示する狙いは、いずれ始まる米国との交渉で主導権を握るためであろう。バイデン政権は北朝鮮に無条件の対話を呼び掛けているが、現段階で北朝鮮は応じていない。北朝鮮にとって都合のいい形で交渉に入れる見通しが立ってない可能性がある。

 ただ、このまま事態を放置すれば北朝鮮は核・ミサイル開発をさらにエスカレートさせるだろう。日本をはじめ周辺諸国は北朝鮮が主張する技術レベルを鵜呑(うの)みにする必要はないが、決してその軍事力を過小評価してはなるまい。今はまだ北朝鮮の各種攻撃に対抗する軍事措置を講じることができても、いずれ防衛網をかいくぐる技術を北朝鮮が獲得することを念頭に置くべきだ。

 その意味で、政府が今回のミサイル発射を受けて開催した国家安全保障会議(NSC)で、岸田文雄首相が敵基地攻撃能力の保有を含むあらゆる選択肢の検討を指示したことは極めて重要だ。ミサイル迎撃能力の増強と同時に、抑止力としての敵基地攻撃能力を備える段階に来ていると言える。

 相手に攻撃の意思があるか否かにかかわらず、すでに北朝鮮が保有する各種ミサイルの多くが日本各地を射程に入れているという厳然たる事実を忘れてはならない。

国連安保理では限界も

 このまま北朝鮮に核強国への道を歩ませないためにも、国際社会は結束して各種制裁など北朝鮮への圧力を徹底して履行すべきだ。中国、ロシアが慎重な姿勢を見せてきた国連安全保障理事会の非難声明や、対北融和路線に固執する韓国と日米の連携だけでは限界がある。