タブレット活用し「反転授業」
宮城・富谷町立東向陽台小学校で
諸外国や日本の高等教育機関でICT(情報通信技術)を活用した取り組みの一つとして「反転授業」が試みられている。日本の小学校教育では難しいとされてきたが、宮城県富谷町立東向陽台小学校(相澤惠子校長、児童数1016人)が平成24年から日本で初めて実施。成果を上げている。(市原幸彦)
子供の生活全体に良い影響
学校を「学び合い」の時間に
同小の反転授業は、児童があらかじめ家で授業の動画を見て基礎的な知識などを身に付けておき、学校での対面授業では「学び合い」に十分な時間を割いて「活用」の力を伸ばす、というもの。佐藤靖泰教諭が受け持つ6年生の1クラスで、10月に算数の比例と反比例の単元(全13時間)で実施した。
同校が家庭学習と学校授業を効果的につなぐ方法を探っていたところ、東北学院大学(仙台市)の稲垣忠准教授から、反転授業に関する協同研究の打診を受けた。この方法によって授業の中で「講義」の時間を削ることができ、十分な学び合いができると考えた。稲垣准教授を通し企業のサポートを受け、一人一台のタブレットを児童に配布。
佐藤教諭が「比例」と「反比例」とで違ったタイプの動画講義を作成。スタジオ撮影動画とスクリーンキャストだ。どちらも長さは5分から8分程度。
1年目の24年度は、東北学院大学の研究室に設置した電子黒板の前で「比例」授業をし、それをビデオで撮影。電子黒板にはデジタル教科書を写し、児童が持っている教科書と同じものを画面に映して説明。
先生の顔も映るので、普段の授業と近い感覚で視(み)ることができる。一方で、撮影機材や、撮影スタッフが必要になるため、動画講義を作成する労力が大きくなるのがデメリットのようだ。
2年目の昨年度は、スクリーンキャストのソフトを使って新たに「反比例」の講義を作成。デジタル教科書をタブレットPCに入れ、そこにペンで書き込みながら講義を作成した。「簡単に作れて、自分で編集できるのが長所」(佐藤教諭)だ。
これらの予習動画は、業者が作ったような立派なコンテンツではないが、授業内での意識付け、授業との連動によって、効果を上げている。
教室では協働学習(自力解決、ペア解決、グループ解決)を行い、電子黒板で共有して討論する。作業中の画面が電子黒板にリアルタイムで表示されるので、他の児童の思考が見えるので、自分の考えと比較しやすかったり、自分の考えを整理する助けになる。
反転授業に関しては昨年、東京大学や京都大学が大規模国際オンライン講座(ムーク)に参加し、米国では一部の小・中・高校でも取り組んでいる。日本の私立高校(大阪府)でも実施しているが、半数が見ればいい方というのが現状のようだ。
そこで佐藤教諭が力を入れているのが「ノート作りの指導」だ。児童は、分かったことと、分からなかったことを書いてくる。教師の方も、動画の視聴ログと予習したノートを確認し、予習状況を把握する。
授業中にも、家庭学習用映像に登場した言葉を使って小さな発問を繰り返すなど、予習してくるモチベーションを高める。学ぶ姿勢が整い、特定の事情がなければ全員ノートづくりをやってくるという。
今のところ、比例、反比例の授業にだけ取り組んでいるが、反転授業を通して学んだ表現力や他者意識は、その単元に限定されることなく、子供たちの生活全体によい影響を与えている。
課題としては、活動についてアドバイスすること、分からない子をサポートすること、適切なタイミングで適切な声掛けをすることなど、教師のスキルについての研修体制はまだ整っていないことだ。
タブレット端末は無償で貸し出し、学校が管理。1年目が終わったときにとったアンケートでは、保護者からマイナスの声はほとんどなかった。動画を繰り返し視るためか実施前に比べて学習時間が1・5倍に増えたが、これは、ポジティブに受け止められているようだ。
相澤校長は「反転授業は新しい取組みで、さまざまな意見があるでしょう。しかし、これからの授業のあり方を探る方法の1つであり、子供の明日につながっていくのではないかと考えます」(Benesse教育情報サイト、平成25年度でのコメント)としている。