五輪まで1ヵ月、安全な大会へ詰めを急げ
7月23日の東京五輪開幕まで1カ月に迫った。上限1万人で観客を入れることも決まった。安全安心な大会を実現するため、新型コロナウイルス感染対策をさらに詰めていく必要がある。「人類が新型コロナを克服した証し」(菅義偉首相)として、五輪史上に残る大会とするための重要な1カ月である。
観客数は上限1万人
大会組織委員会は五輪会場の観客数を収容定員の50%以内で上限1万人とすると発表した。政府、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)とのオンラインによる5者会議で合意し、政府の大規模イベント開催方針を踏まえたものだ。
政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長らは「無観客が望ましい」と進言していた。もちろん、感染対策上はその通りだ。ただ、同じことはプロ野球やJリーグなどの大規模イベントについても言えよう。
五輪は4年に一度の世界的なスポーツイベントで「平和の祭典」である。開催意義は国内イベントに比べ遥かに大きい。先進7カ国首脳会議(G7サミット)も開催を支持した。開催する以上は観客を入れ、静かでも盛り上がる大会にしたい。
組織委が上限を設けて観客を入れることを決めた第一の理由として、緊急事態宣言期間を含む4月から6月上旬、プロ野球やJリーグの多くの試合で観客数は1万人を超えていたが、客席でのクラスター(集団感染)は発生しなかったことが挙げられる。各会場で感染対策を行い、観客が従えば、クラスターは防げることが示されたのだ。
組織委は、マスク、ハンカチの持参、手指の消毒徹底、会場への時差来場、分散退場など、既に観客向けのガイドライン(素案)を発表している。
問題は、有観客による開催で人流が増加することである。感染リスクの高まりを抑える鍵となるとみられるのが、会場と自宅を寄り道せずに往復する「直行直帰」である。これが実行されるように、組織委はその重要性を訴えていく必要がある。
5者会談では、現在東京都などに出されている「まん延防止等重点措置」の期限となる7月11日以降に緊急事態宣言や同措置が発令された場合、無観客を含めて対応するとしている。新型コロナの感染状況は、ワクチン接種が進む一方、より感染力の強いとされるインド型変異株の拡大もあり予断を許さない。無観客を含めた迅速、柔軟な対応は当然である。
屋外で映像を観(み)ながら応援するライブサイトやパブリックビューイングは中止や規模の縮小を検討する。既に東京都の小池百合子知事は、都内でのパブリックビューイングの中止を発表している。試合会場以上の応援の盛り上がりが想定され、人流の増加につながることを考えるとやむを得ない措置だ。
ワクチン接種の加速を
新型コロナの蔓延(まんえん)で、五輪の開催には、いかに安全安心な大会を実現できるかという新たな意義が加わった。それを日本ができるかどうか、世界の注目が集まっている。開催まで感染状況を極力抑え、ワクチン接種を加速することが重要だ。