ロシアは再び「暗黒時代」

 ロシアの反政権指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の釈放を求める無許可デモがロシア全土で行われ、治安当局は参加者1万人以上を拘束した。当局の徹底した制圧によりデモは中断に追い込まれたが、中長期的にはプーチン体制を揺さぶる可能性があるとの見方が強い。
(モスクワ支局)

デモ参加者に「裏切り者」烙印
ナワリヌイ氏支持デモは中断

 昨年、毒殺未遂に遭ったナワリヌイ氏が療養先のドイツから帰国したところで、ロシアの治安当局に拘束されたのは1月17日のことだった。

1月31日、ロシア・サンクトペテルブルクで、反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏を支持するデモに参加し、警官に拘束される男性(AFP時事)

1月31日、ロシア・サンクトペテルブルクで、反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏を支持するデモに参加し、警官に拘束される男性(AFP時事)

 一方でナワリヌイ氏の関連団体は19日、プーチン大統領のものとされる、建設費推定1000億ルーブル(約1400億円)というロシア南部黒海沿岸の「宮殿」の暴露動画を公開し、大きな反響を呼んだ。

 このような中で1月23日にロシアの125カ都市、31日には86カ都市でナワリヌイ氏釈放を求めるデモが行われ、この2日で1万人以上が治安当局に拘束された。

 ナワリヌイ氏が拘束された理由は、過去に受けた禁錮3年6月の執行猶予付き有罪判決に関し、執行猶予中の出頭義務を怠ったためとされる。ナワリヌイ氏はこの有罪判決を「政治的動機に基づくでっち上げ」としており、欧州人権裁判所も「恣意(しい)的で明らかに不合理」と判断している。

 しかしモスクワの裁判所は2日、執行猶予を取り消し、実刑への切り替えが妥当とする判断を下した。過去の自宅軟禁期間が除かれ、収監は2年8カ月程度となる。

 ロシアの世論調査機関「レバダセンター」が2月1日に発表した世論調査によると、18歳から24歳の46%がプーチン政権を評価しない一方、36%がナワリヌイ氏を評価すると回答した。一方で、今回デモには多くの若者が参加したが、その46%は、デモに参加するのは初めてだった。

ナワリヌイ氏(AFP時事)

ナワリヌイ氏(AFP時事)

 野党勢力は一枚岩にはほど遠く、ナワリヌイ氏を支持しない人々は多い。しかし、独裁体制を強化し、ロシアをスターリンの「暗黒時代」に逆戻りさせようとするプーチン政権に反発する若者らが、政権に真っ向から挑むナワリヌイ氏に共感しデモに参加したのだ。

 一方でナワリヌイ陣営幹部のボルコフ氏は4日、抗議デモを春まで中断すると表明した。これ以上デモを続ければ「さらに何千人もの人々が拘束され、暴行を受ける」ことが理由であり、今年9月の下院選挙に向け、体勢を立て直す考えを示した。

 これだけを見れば、デモを力で封じ込めたプーチン政権側の勝利と言える。しかし中長期的には、ナワリヌイ氏が政権を揺さぶる存在になることは否定できない。政権は警戒を強めており、すでにいくつかの動きが始まっている。

 一つは、抗議デモ参加者を「祖国への裏切り者」として、刑事罰を科そうというものだ。ナワリヌイ氏支持者らがデモで、プーチン大統領などへの国際制裁を呼び掛けることがあるが、この呼び掛け自体を「祖国への裏切り」として、刑事罰の対象とする法案を提出する動きが下院で始まっている。

 もう一つは国外とのインターネット通信の切断だ。プーチン政権はメディア統制を進めてきたが、インターネット上の情報を統制するには至っていない。しかし、メドベージェフ露安全保障会議副議長(前首相)は4日、「グローバルインターネットへのアクセスをブロックするすべての技術的能力を持っている」と発言し、それを実行する可能性を示唆した。

 プーチン大統領は昨年の憲法改正により、24年に行われる大統領選への立候補資格を与えられ、さらに2期12年、83歳まで大統領を続投することが可能となった。

 大統領選で勝利するためには、与党「統一ロシア」の強力な基盤が必要であり、そのポイントとなるのが、今年9月の下院選挙だ。

 ナワリヌイ陣営は、ネットなどを通じて政権与党・統一ロシア以外への候補への投票を呼び掛ける「賢い投票」運動を展開する。19年のモスクワ市議会選では野党勢力を伸長させ、統一ロシア支配に風穴を開けた。ナワリヌイ氏の活動はまだ小さなうねりだが、その矛先は確実に政権の急所に向いているのだ。