コロナ禍の泥沼化を防げ

免疫力アップで健康の砦

琉球大学名誉教授 平良一彦氏に聞く

 新型コロナウイルスの感染拡大が広がっている。国は東京、大阪などの都市部を中心に緊急事態宣言を発令しているものの、感染拡大になかなか歯止めがかからない。健康長寿に詳しい琉球大学の平良一彦名誉教授に、どのような対策が有効なのか尋ねた。
(聞き手=豊田 剛)

感染者ふるい分け徹底を
もぐらたたき的対策はだめ

現行の新型コロナウイルス感染症対策についてどう考えるか。

琉球大学名誉教授 平良一彦氏

 たいら・かずひこ 1945年、那覇市出身。未病専門指導士。78年、長崎大学大学院薬学研究科修了後、同大医学博士。長崎大勤務などを経て94年、琉球大学教授に就任。以後、沖縄大学地域研究所客員研究所特別研究員、名桜大学客員研究員を歴任した。やんばるヘルスプロジェクト代表。

 ①病原体(感染源)②感染経路(不活化の徹底)③感受性者(感染する恐れのある国民)――。この三つに分類して効果的な対策を取ることが、喫緊の課題だ。PCR検査、クラスター追跡、濃厚接触者追跡という現行の積極的疫学調査は「もぐらたたき」でしかない。

感染源対策について説明してほしい。

 感受性者対策としてのワクチンや効果的治療薬が国民に行き渡らない今、優先されるべきは感染者と非感染者を素早く分けるスクリーニングを徹底することだ。現状では、PCR検査は、スクリーニングとして使われているのか、確定診断のための利用なのかがあいまいである。

 公衆衛生学的な視点では、母集団の中で感染者が誰かを素早くふるい分けることが肝要だ。新型コロナウイルスの感染者の大半、中でも特に若者は不顕性感染者と呼ばれる無自覚症状で終わるか、感染しても軽症で済んでいる。

 しかし、このウイルスは発症前から強い感染力を持っているとされ、しばしば保菌者(キャリア)となって日常行動の場で抗原体(ウイルス)を排出し、感染源となる。これは疫学上、大きな問題である。

抗原検査とPCR検査で、今優先させるべきなのはどちらか。

 感染後数時間で反応する「抗原検査」は、感染した数日後にしか反応しない「PCR検査」よりも優先させる必要がある。感染してから症状が出るまでの時期をいかに素早く確実に把握することが対策の基本だ。

 ウイルスが蔓延(まんえん)する現環境下で、急ぐべきはスクリーニングの徹底だ。時間を惜しまず、対象地域を広範囲に広げて、的確に蔓延状況を把握する。感染初期に無症状の状態で発見することは、重症化を未然に防ぐことにつながり、逼迫(ひっぱく)する医療環境の改善に役に立つ。

感染を広げないために、今できることは何か。

 飛沫(ひまつ)感染、接触感染、空気感染を防ぐことは極めて重要なことにもかかわらず、この点に関しては国や自治体は完全に個人・民間任せにしている。蔓延を防ぎ、素早くかつ確実な効果を挙げるためには、国の責任で積極的な対策を取るべきだ。

 国の「Go To キャンペーン」はこうした配慮がないまま進められてしまった。それぞれの観光地が真に安全な場所であれば、国が補助金を出さずとも国民はそこに出掛けるものだ。殺菌グッズは多く出回っているが、費用対効果も考慮しながら、即効性と耐久性があって、かつ、健康にやさしい製品を国は推奨し、助成すべきだ。

 殺菌・除菌に効果的なものとして、NASA(アメリカ航空宇宙局)でも使われているカプロンクロス(銅繊維)や電子水加湿器、プラズマ応用製品などが挙げられる。

 家庭、学校、職場、医療・介護現場、飲食店、雑居ビルから、宿泊施設、イベント会場に至るまで、人が集まる空間から新型コロナウイルスを素早く消し去ることが最優先課題。官民挙げて空間除菌対策を積極的に推進するのが望ましい。

 携帯用空気除菌装置の開発も重要となる。各個人の移動とともに携帯できれば、不安を取り除くためにも効果的だ。

感染しないようにするためには、常日頃どうすることが望ましいか。

 手洗い、消毒、うがいに加え、3密を避けることはもちろんのこと、長寿者のライフスタイルに学ばなければならない。食生活、運動、睡眠など日常生活を点検し、ウイルスに対抗できる免疫力を個々の努力で最高度に高める工夫をし、健康の砦(とりで)をしっかり築こう。

 沖縄に「ぬちぐすい」(命の薬)という沖縄長寿者の言葉がある。食事こそクスリ、特に、野菜こそクスリだ。

 野菜類に含まれるフラボノイド、ポリフェノール、カロテノイドなど、活性酸素を除去する働きを持つファイトケミカルを多く取ることは、免疫作用により体内に侵入してきた病原体を処理するために産生された余分の活性酸素が細胞や遺伝子を傷つけるのを防ぎ、体内のダメージを抑えることができる。野菜や果物の摂取が免疫力の増強・調整に極めて効果的であることは検証済みだ。今こそ、国民が食生活を正す絶好のチャンスだ。

 最近の睡眠研究から、短時間睡眠の人の免疫力は7~8時間睡眠の人と比べ、免疫力がかなり弱いことが指摘されている。実際、短時間睡眠者はウイルスや細菌に感染しやすく、各種予防接種効果も悪いことが明らかになっている。肥満、糖尿病、高血圧、睡眠時無呼吸症候群の人は一般的に睡眠の質が不良の人が多いと言われるので、十分な睡眠時間や良質な睡眠の確保に特段の留意が必要だ。

 栄養・運動・睡眠は健康を左右する三本柱であり、しっかりとバランスの取れた生活行動を取ることが望ましい。

ワクチン接種は急ぐべきか。

 ワクチン接種の効果や副作用に関する十分な情報、さらにはすでに出現した変異株への対応など、まだまだ検討課題は多い。今や、主たる感染源は人であり、宿主(感受性者)もまた人である。人から人への感染経路を遮断するための手段として、空間除菌(殺菌)を国、行政の力で徹底的に行うことが緊急性を持つ。さらに、抗原検査キット活用による全国民的なウイルスの蔓延状況を素早く把握し、健康自己管理、隔離収容、臨床的対応、空間除菌の徹底を急ぎたい。ワクチンは次の手段である。