ミャンマーのクーデター

《 記 者 の 視 点 》

日本は非難と関与の2本立てで

 ミャンマーでクーデターが起き、国軍が政権を奪った。

 昨年11月の総選挙では、スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が上下両院(定数664)で396議席と地滑り的勝利を果たした一方、国軍系野党の連邦団結発展党(USDP)は33議席と惨敗した。

 それでも国軍には、上下両院定数の25%を軍人枠とする特権が与えられ、政治への国軍関与が憲法で保障されている。それにもかかわらず軍がちゃぶ台返ししたのは、このまま手をこまぬいたままだと、圧倒的な国民の支持をバックにNLD政権によって憲法改正に持ち込まれ、軍人枠の25%条項さえも危うくなるとの焦燥感があったもようだ。

 クーデターが起きた2月1日は、総選挙の結果を受け議会が招集され、新政権発足に向けスタートを切ろうとしていた矢先の出来事だった。

 クーデターは要人拘束、メディアジャック、非常事態宣言と定石通りに実行され、その日のうちに閣僚人事を決めていった手際の良さを見ると、用意周到に準備されていたことが分かる。

 クーデター後、最大都市ヤンゴンや第2の都市マンダレーでは、町中で車のクラクションが鳴らされ、鍋釜を叩(たた)いて国民は国軍への抗議を示した。

 ミャンマーには音で邪気を払う風習が残っている。太鼓などの音は、生命力を喚起し、その力で邪気を払う破魔の音だ。いわば国軍は破魔の対象となり、悪魔扱いされたことになる。

 だが、ここで真の邪悪者を見誤ってはならない。

 「一帯一路」で陸と海の要衝を抑え、巨大なユーラシア経済圏を構築することで世界覇権への橋頭保を築こうという中国の思惑が絡んでいるからだ。

 国連安全保障理事会は議長国英国がクーデター非難声明を出そうしたが、常任理事国の中国やロシアが「(様子を見る)時間が必要」ということで、引き延ばしを図った。

 それでも米国や欧州は、容赦のない制裁を打ち出す見込みだ。ただ、悩ましいのはこうしたムチだけではミャンマーの中国傾斜に拍車が掛かってしまうことだ。

 インド洋の出入り口となるミャンマーは、中国にとって地政学的要衝の地だ。だからこそ中国は大金を投じてミャンマー西部のチャウピューに港湾を整備し、雲南省と結ぶ天然ガスと石油のパイプラインを建設、ダムや鉄道建設などインフラ整備にも余念がない。

 バイデン米政権は人権外交を表看板に掲げ、同盟関係強化を公約していたことから、わが国にも米国と同様の制裁を求めてくることが考えられる。3日の先進7カ国(G7)外相声明では「非難」が盛り込まれた。だが、わが国は非難はしつつも、従来通りの関与政策を放棄せず、軍政回帰の愚を戒め、民政復帰への道を粘り強く説く必要がある。

 中国は2049年の建国100周年を「中国の夢」実現のナショナルゴールに据え、着々と布石を打ってきている。人類が共有できるまともな夢なら文句はないが、強権統治の手法を見ると日本や欧米にとっては悪夢でしかない。マフィア化し始めている中国共産党独裁政権に、“不良少年”ミャンマーを押しやってはならない。

 編集委員 池永 達夫