刑確定の朴槿恵前大統領と李明博元大統領 赦免めぐり 韓国大揺れ

文政権、選挙に利用か

 韓国で朴槿恵前大統領と李明博元大統領の赦免問題が年明けから急浮上している。支持率が低迷する文在寅大統領が来年3月の次期大統領選で左派を再び勝利させるため、カードとして利用するのではないかとの見方が多い。赦免に否定的な世論の動向がカギを握りそうだ。(ソウル・上田勇実)

与党「反省が先」、世論も否定的

 事の発端は今月1日、与党「共に民主党」の李洛淵代表が韓国メディアのインタビューで「適切な時期に2人の前職大統領の赦免を文大統領に建議する」と述べたこと。14日には大法院(最高裁)が国政介入事件で収賄罪などに問われた朴氏に懲役20年の実刑判決を言い渡し、最終的に刑が確定した。すでに刑確定で収監中の李氏と共に「赦免され得る法的身分」となり、一挙にこの問題への関心が高まった。

韓国の朴槿恵前大統領(AFP 時事)

韓国の朴槿恵前大統領(AFP 時事)

 今この時期に前職大統領の赦免に言及したのは政治的計算が働いているからにほかならない。

 文政権は、不動産価格抑制の失敗や政権絡みの疑惑に捜査のメスを入れる検事総長に対する強引な懲戒圧力などで過去最低の支持率を更新した。次期大統領選に向け形勢逆転の材料が何より欲しいところだ。

 朴・李両氏は保守系であるため、赦免で「恩」を売り一部保守層の支持を取り付けたり、政敵を赦免することで国民統合をアピールし、無党派層を取り込みたい考えとみられる。また朴氏の派閥と李氏の派閥の対立を再燃させ、保守分裂を引き起こす効果も期待しているのではないかと言われる。

 このほか、すでに各種の権力型不正疑惑への関与が取り沙汰される文氏自身が万が一退任後に起訴・有罪となっても、前職大統領赦免という前例をつくっておけば、それが自分への赦免にもつながるだろうとの思惑まで隠されていると指摘する識者もいる。

 保守派からは「文政権は国内経済や外交を立て直すのは下手でも、北朝鮮の金正恩への媚(こ)び売りと政治的計算だけは素早い」と揶揄(やゆ)する声も聞かれる。

韓国の李明博元大統領(EPA時事)

韓国の李明博元大統領(EPA時事)

 だが、李代表のお膝元である与党では「本人の反省が先だ」などと赦免に反対する声が強まっている。各種世論調査でも賛成・反対が拮抗(きっこう)しているか、逆に反対が大きく上回る結果も出ており、赦免に対する国民の反応は芳しくない。自身も有力な次期大統領候補である李代表は、赦免への言及を機に支持率が急落してしまった。

 赦免権を持つ文氏は18日、新年の記者会見で赦免には消極的な姿勢を示した。

 一方、朴・李両氏の大統領選出の母体となった保守系野党「国民の力」は「文大統領の決断に期待する」として赦免を促している。

 韓国では1997年、収賄・内乱などの容疑でそれぞれ無期懲役と懲役17年の実刑判決を受けた全斗煥・盧泰愚両元大統領が、収監後8カ月余りで赦免された前例があるが、特に4年近く収監されている朴氏には同情する声もある。

 国家元首を長年収監させるのは「国の品格を落とす」という考え方もあり、一部保守派は「朴氏が必要以上に虐げられている」というイメージを増幅させ、赦免支持の世論を広げたい考えだ。

 いずれにしろ2人の前職大統領の赦免問題は今後も政治的、社会的な争点となり続ける公算が大きい。

 4月には次期大統領選の前哨戦ともいわれるソウル市長選があり、今のところ「反文在寅」を掲げる中道系野党「国民の党」の安哲秀代表がやや優勢だ。文政権としては形勢を逆転させられると判断すれば、「赦免カード」をいつ切っても不思議ではない。