科学者の国防無知 学術会議は正しく対応すべきだ
《 記 者 の 視 点 》
「研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用されうるため、まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」
今、話題の日本学術会議が2017年3月に決定した「軍事的安全保障研究に関する声明」の恐らく最も有名な一節だ。
これが頭に浮かんでずっと離れなかったのは、「週刊新潮」が4回にわたって特集した「日本の科学技術を盗む『中国千人計画』」の初回(10月22日号)を読んでいた、その時だ。
「千人計画」とは中国が08年に始めた世界のトップレベルの研究者を招聘(しょうへい)する計画だが、これに参加した元京大教授は原子炉を安全に運転するシミュレーションの専門家。京大時代の教え子がハルビン工程大の助教授となり、千人計画に誘ってきたという。履歴書だけで申請してくれ、3部屋の研究室と年間研究費2000万~3000万円で5年間で1億5000万円。さらに月給約50万円で極寒の地に実際に滞在するのは夏の3カ月だけ。住まいも大学持ちのホテルだったという。
もう一人の東大名誉教授は物理学が専門で、北京での連続講義で知り合った中国人教授から誘われ、論文リストだけ渡したら選ばれた。東大と同じポストで少し多いくらいの待遇を受けて、公的な研究費にも当たり、学生に講義もせず、文科省からの要望や学会での付き合いもなく、研究に没頭できる。「まるで楽園ですね」と語っている。
さらに、研究悪用への懸念を尋ねると「よもや日本にそんな技術がありますかね」と反問し、「むしろお金をかけてレベルの高い研究者を招き、若い人たちを育てて学問のコミュニティを形成する…まっとうなやりかたをふんでいるだけですよ」と応じている。
2人の属する大学は中国軍の兵器製造の一端を担う「国防七校」に指定されているという。研究成果の軍事転用はもとより、本丸の教授や若手を招請するための人寄せパンダとなる恐れもあるはずだが、国防や軍事的な視点がすっぽり抜け落ちている。そこで、確かに日本学術会議の声明も、ある面で正鵠(せいこく)を射ているなと思ったわけだ。
ただ、その方向が間違っている。冒頭の声明は、15年に発足した防衛省の「安全保障技術研究推進制度」の予算が3億、6億、110億円と増額されることに“危機感”を抱いたグループが主導し、「まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」として、大学等の研究機関や各分野の学会・協会等に厳格な“対応”を求めるものだった。
自国の防衛と関連する研究は毛嫌いでもするように2年で関係を断つよう立ち上がる一方で、法制的に「軍民融合」体制が確立している中国からの科学者への莫大(ばくだい)な資金提供には10年以上、何の反応も示さなかった。そんな学術会議は、本当に「日本」の「科学者を代表する機関」と言えるのか。改めて自問すべきだ。
政治部長 武田 滋樹










