「女性擁護の顔」セクハラか 現職ソウル市長自殺に衝撃

極端な選択、社会に悪影響
市葬に反対請願50万人超

 元女性職員に対するセクハラ容疑で告訴されていた朴元淳ソウル市長が自殺し、韓国社会に衝撃が走っている。朴氏はいわゆる元従軍慰安婦をはじめ女性被害者の支援に積極的な韓国を代表する「女性擁護の顔」だっただけに、そのギャップに驚かされる。韓国では不正や不祥事で追い込まれた有力政治家が極端な選択をする例が後を絶たず、社会への悪影響が懸念されている。(ソウル・上田勇実)

朴元淳ソウル市長=2月21日、ソウル(EPA時事)

朴元淳ソウル市長=2月21日、ソウル(EPA時事)

 朴氏は女性擁護歴が長い。人権派弁護士として活動をしていた90年代、ソウル大学で上司の男性教授から性的いやがらせを受けた上、これを拒もうとして職場で不利益を被ったと主張する女性助教授が起こした損害賠償訴訟で助教授を弁護し、勝訴に導いた。事件は韓国で初めて起こされたセクハラ裁判として知られる。

 朴氏は2000年に日韓などの民間団体が東京で開いた模擬裁判「女性国際戦犯法廷」に韓国代表の検事役として参加し、慰安婦問題に対する日本の責任を追及した。裁判官は天皇陛下(昭和天皇)に「有罪判決」を下したが、他の検事として後に工作員の疑惑が浮上した北朝鮮代表も参加するなど物議を醸した。

 朴氏は11年の補欠選挙でソウル市長に当選し、就任直後にまず「ジェンダー特別補佐官」を市長室直属に新設して女性政策に力を入れた。元慰安婦の一人、故金福童さんの生前には多数の日本人観光客も行き来するソウル市庁に近い地下鉄「光化門」駅構内にある大型掲示板に金さんの93歳の誕生日を祝う意見広告が登場したが、これも朴ソウル市政下ならではの光景と言える。

 人権派弁護士、しかもフェミニストを自称する朴氏が今度はセクハラの加害者として告訴されたとなれば、ただ事では済まない。

元慰安婦の金福童さんの誕生日を祝う地下鉄の広告=2018年5月(上田勇実撮影)

元慰安婦の金福童さんの誕生日を祝う地下鉄の広告=2018年5月(上田勇実撮影)

 長年の活動を通じ築いてきた地位や名誉、クリーンなイメージは失墜し、家族にまで被害が及ぶ。世間体を気にする傾向が強い韓国社会では「恥をさらしたまま生きる」ことは耐え難い。そんな心理が朴氏を極端な選択に走らせたのではないか。

 朴氏の自殺で思い出されるのが09年、巨額収賄疑惑で検察の捜査を受けていた最中、投身自殺をした盧武鉉元大統領だ。

 共通するのは大統領かそれに準じる有力政治家でありながら法の裁きを避けるように自殺したことだ。捜査は終結し、自身に向けられた疑惑の目はいつしか同情に変わり、家族に対する批判や中傷もパッタリ途絶える…。二人ともそこまで計算した上での決断だった可能性がある。

 だが、最大の問題はこうした要人の自殺が韓国社会に及ぼす悪影響だ。すでに「極端な選択をすれば過ちに蓋をすることができ、はなはだしくは英雄にもなれるという間違ったメッセージを大衆に与える」(大手紙・朝鮮日報)と危惧する声も出ている。

 与党系の有力な次期大統領候補だった朴氏の自殺に政府・与党も戸惑いを隠せない様子だ。朴氏の葬儀はソウル市が施主となる市葬として執り行われたが、「大々的に行うのは被害女性を二度傷つける行為に等しい」「静かに家族葬でやるべきでは」といった懐疑的世論も起こり、青瓦台(大統領府)ホームページには市葬に反対する請願が50万人以上も寄せられている。

 韓国では安熙正・忠清南道知事(当時)や呉巨敦・釜山市長(同)など与党系の地方自治体首長が相次ぎセクハラ事件を起こして辞任に追い込まれた。与党のセールスポイントである道徳性が大きく揺らぎ始めている。