隠された政治目標 白人に贖罪意識植え付け
米国は奴隷制維持のために建国されたと断罪するニューヨーク・タイムズ紙(NYT)の「1619プロジェクト」は、もはやジャーナリズムではなく、政治的主張との批判が上がっている。
だが、歴史家や専門家をさらに驚かせたのは、同プロジェクトが米ジャーナリズム界最高の栄誉であるピュリツァー賞を受賞したことだ。
受賞したのは、プロジェクトリーダーのニコル・ハナジョーンズ氏が執筆した巻頭論文だが、多くの歴史家から数々の誤りを指摘され、論旨の根幹を成す部分を一部訂正した“いわく付き論文”である。
選考委員会は「ほとんどの歴史家は奴隷制の維持が独立戦争の主要因ではないと信じている」と認めながら、「米国のアイデンティティーに関わる重要な問題で有益な議論や会話を巻き起こした」ことを受賞理由に挙げた。内容が正確かどうかはどうでもよく、論争になった事実が重要だというのだ。理解に苦しむ選考基準である。
ハナジョーンズ氏の論文はコメンタリー部門での受賞だったが、「ふさわしいのはフィクション部門だ」(ニューヨーク・ポスト紙)と揶揄(やゆ)する声まで上がった。それでも、ピュリツァー賞という「お墨付き」は、1619プロジェクトの社会的地位を格段に向上させたことは確かだろう。
そもそもハナジョーンズ氏は、どのような動機でこのプロジェクトを立ち上げたのか。同氏は昨年12月のラジオトーク番組で、次のように明言している。
「最終目標は賠償法案を成立させることだ」
白人が今日、経済的繁栄を享受しているのは、黒人を奴隷として働かせた結果であり、米政府は黒人に賠償金を支払うことでその「借り」を返すべきだ、との考え方である。
国家賠償はすぐに実現する見込みのある政策課題ではないが、ハナジョーンズ氏は昨年10月のシカゴ大学での講演で、「私の手法はギルト(罪)だ」と述べている。つまり、白人に贖罪意識、いわゆる「ホワイト・ギルト」を植え付けることで賠償論議を拡大させていくことが1619プロジェクトの出発点なのである。
このような政治目標が隠されたプロジェクトであるにもかかわらず、教育現場では教材・カリキュラムとして導入する動きが前例のないペースで進んでいる。NYTと連携し、同プロジェクトの教育活用を推進する非営利組織「ピュリツァー・センター」(ピュリツァー賞の運営組織とは別団体)の昨年の年次報告書によると、全米50州、計3500以上のクラスで取り入れられた。特にシカゴやワシントンなど5都市は、学区全体で教材として導入することを決めた。
また大手出版社が書籍として出版する企画も進んでいる。若い世代にも読んでもらうため、青少年向けの本や絵本、グラフィック・ノベルも出す予定だ。NYTは今年2月のアカデミー賞授賞式で、大物女優を起用した1619プロジェクトのテレビCMを流すなど、積極的な宣伝活動を展開している。
1619プロジェクトは今や、イデオロギー、ビジネスの両面からNYTの看板事業となっている。歴史の歪曲(わいきょく)との批判をどんなに浴びようとも、事業拡大に突き進むのだろう。
白人に贖罪(しょくざい)意識、黒人に被害者意識を植え付ける1619プロジェクト。反米自虐史観の浸透が進むほど、米社会の分断も深まることは避けられない。
(編集委員・早川俊行)
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