真実追究を怠る日本メディア

拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ ギャルポ

中国政府の主張垂れ流す
新型コロナ蔓延の責任追及を

ペマ・ギャルポ

拓殖大学国際日本文化研究所教授
ペマ ギャルポ

 世界中が中国発の新型コロナウイルスに侵され、国家・民族を超えて人類は大きな危機にさらされている。日本でも感染拡大に伴い、東京五輪・パラリンピックが来年まで1年延期され、7日には7都府県に緊急事態宣言が出された。いずれにしても、この強烈な謎のウイルス禍が世界全体で完全に終息するまでは、まだ数カ月から下手をすると1年間以上かかるとの予想もある。

共産党独裁による人災

 世界各国はさまざまな対策を講じ、科学者や医師も懸命にこの危機を克服するための努力と工夫をしているほか、アメリカ合衆国をはじめ各国は兆単位の国家予算を投じている。日本でも総額108兆円の緊急経済対策が決定され、収入が大幅に減少した世帯に30万円の現金を給付するなどの救済策が取られることとなった。

 私個人としては低所得者の物価上昇に対する苦しみを考えるなら、減税あるいは消費税の廃止がより効果的ではないかと考える。いずれにしても一日も早く終息することを願うばかりである。

 日本のメディアを見聞すると目先の現象だけを重視し、今の流行から何を学ぶべきかについては深く考えていないように思える。ウイルスそのものの病理的対処の方法については医師や科学者の専門の領域である。しかしこれだけ世界中に蔓延(まんえん)したことは、やはり人的な災害の要素があると同時に、政治的体制の問題が根源にあるように思う。

 アメリカのトランプ大統領はいみじくもこのウイルスを「中国ウイルス」と命名し、アメリカの研究者のスティーブン・モッシャー氏などのように、武漢の研究所からの流出について言及している人物もいる。もちろん、それに対して中国政府の報道官などは逆にアメリカの関与を指摘し、両国の激しい応酬が続いている。

 日本ではこの米中の対立について第三者的にただ報道しているのみであり、どこに真相があるかを伝えようとはしていない。これも日本特有の忖度(そんたく)文化なのか、あるいはメディアが真実を追究し報道することを放棄しているように見える。

 私は少なくとも昨年12月8日に中国で症例報告が出た段階で当局が隠蔽(いんぺい)せずに対応していれば、ここまで蔓延せず済んだのではないかと思う。

 12月30日、武漢の李文亮医師がインターネット交流サイト(SNS)で内部告発を行ったが、中国筋によると、武漢の公安当局は逆にこの医師を根拠の無いデマを飛ばしたとして訓戒処分とした。残念ながらこの医師はその後、今年2月7日に新型肺炎で亡くなった。メンツを重んじる北京政府は3月になってこの医師の家族に謝罪すると同時に武漢の市長をはじめ、幹部たちを処分したと報じられている。

 これはすなわちトカゲの尾を切るようなものであり、メディアはそこを追及し、本来であれば習近平国家主席を頂点とする中国共産党一党独裁が招いたことを世界に伝える責任がある。と同時に、習近平主席は世界に対し、今回の史上最悪のウイルス蔓延に対する謝罪および賠償責任を果たす義務があるのではないか。

 それなのに日本の主要メディアは、「中国が上手にこの問題に対処した」、中には「世界が中国に対し感謝すべきである」という非論理的な主張をそのまま垂れ流しにしている。

 この他にも中国発のウイルスに関してはさまざまな情報が流れている。例えば中国の軍の生物兵器実験所の関係者が小遣い稼ぎに行う、ウイルス感染に使用した実験動物の売却横行などもそうである。いずれにしても真実はいずれ暴かれるであろう。

国際機関に浸透し操作

 このような状況でも北朝鮮のミサイル発射や、中国の東シナ海での挑発的行為についてメディアが黙認していることに私は非常に危機感を抱いている。世界保健機関(WHO)の当初の対応からも分かるように中国は国連機関をはじめ国際社会に静かに深く浸透し操作し始めていることも実感できたであろう。