韓国与党、新型肺炎で総選挙に黄信号
中国・武漢を発生源とする新型肺炎の影響が韓国でも広がる中、防疫体制の不備や中国への迎合で文在寅政権に批判が集まっている。与党の共に民主党は保守分裂で優勢かとみられた4月の総選挙にも黄信号が灯(とも)り始めた。
(ソウル・上田勇実)
「防疫に不備」文政権批判
中国迎合にも苦言相次ぐ
「新型肺炎で恐怖心や不安心理ばかりが煽(あお)られているようだが、不謹慎を承知の上で言うなら総選挙で文政権への審判を期待する立場としては今回の事態は天からの贈り物。感染者が増え、経済への打撃が大きくなるほど政府・与党への批判が強まるのだから」
外交官出身の保守系活動家は新型肺炎が総選挙にもたらす影響についてこう語った。
実際、文大統領と与党の支持率は下落傾向にある。韓国ギャラップが先月末実施した世論調査で文大統領の支持率は2週間前に比べ4ポイント下がって41%、与党支持率も5ポイントマイナスの34%だった。
1週間後の調査ではわずかに持ち直したが、「文政権下での世論調査は精度に問題がある」(韓国紙論説委員)ことを考慮すると、実際の下落幅はさらに広がる可能性もある。
文大統領は政府の防疫体制を信じてほしいと繰り返し訴えている。だが、ちまたでは「防疫体制が不備」といった不満の声が噴出している。医療機関を何度も訪問した感染者に対し保健当局が何も措置を講じなかったり、保健当局へのホットラインが相談員不足でパンクするなど緊急事態への対応が後手に回っているためだ。
本来、こうした事態に混乱は付き物だが、韓国の場合、これに加え「韓国特有の事情があって必要以上に不安が増幅している」(医療専門家)。デマに左右される集団的恐慌状態だ。
2008年、米国産牛肉の輸入再開で左派系マスコミが「米国産牛肉を食べると狂牛病にかかる恐れがある」と報じたことをきっかけに広がったいわゆる狂牛病騒ぎで、当時の李明博政権に対する退陣デモが数十万人に広がった時のあの「根拠のない不安」と同じだ。
今月4日、新たに赴任した邢海明・中国大使は、韓国政府が武漢を抱える湖北省に滞在する人の入国を禁止したことについて「多くを評価しない。(貿易・旅行の制限は必要ないとする)世界保健機関(WHO)の定めた基準に従えばいいのではないか」と高圧的とも受け止められる発言をし、物議を醸した。
しかし、これに対し文政権は「韓国と中国が緊密に協力し問題を解決しようという趣旨だ」などと中国を擁護。また韓国政府が中国全域への渡航警告を一段階緩和したことをめぐり中国の顔色をうかがった結果ではないかとする指摘も上がっている。
こうした中国迎合ともいえる姿勢に保守系大手紙は専門家コラムで「中国発伝染病が猖獗(しょうけつ)を極めても国民の命を守る上で終始低姿勢なのは屈辱的。貿易も重要だが国民の命より優先されるものではない。すべては文政権の時代錯誤的な対中属国意識から出てきたもの」と痛烈に批判している。
総選挙を前に文政権が取った政治的“配慮”も問題視されている。武漢から帰国した韓国人の隔離施設を当初、天安(忠清南道)に選定したが、住民の猛反発などを理由に急遽(きゅうきょ)、牙山(忠清南道)・鎮川(忠清北道)に変更した。天安は3選挙区すべてが与党議員選出であるため、与党支持者の離脱を避けるため野党議員の選挙区である牙山・鎮川に変更したのではないかという疑惑が浮上している。
新型肺炎の感染拡大に伴い、ただでさえ低迷している景気がさらに落ち込む可能性が高まっている。政府系シンクタンクの韓国開発研究院(KDI)は9日に発表した経済動向で「新型肺炎で今後、景気への否定的影響は不可避」で、特に「外国人観光客の減少と韓国人による宿泊施設、飲食店利用の減少などで2月から消費が落ち込む」と見通した。また中国向けを中心に輸出が減少する可能性にも言及している。
新型肺炎は有権者が最も敏感な景気にも影を落としており、政府・与党は総選挙への影響に神経を尖らせている。






