領土問題は世論結集が不可欠
北海道総務部北方領土対策本部北方領土対策局長 篠原信之氏に聞く
サポーター制度で若者啓発
近年、安倍晋三首相とプーチン露大統領との首脳会談が頻繁に持たれながらも、依然として解決の糸口が見えてこない北方領土問題。元島民の高齢化が進む中で領土返還要求運動は新たな岐路を迎えている。そうした中、北方四島における日本とロシアによる共同経済活動が具体的に動き始めた。北方領土を抱える北海道として今後、どのような取り組みを展開していくのか、北海道総務部北方領土対策本部の篠原信之北方領土対策局長に聞いた。
(聞き手=札幌支局・湯朝 肇)
北方領土返還要求運動が始まってすでに74年が経過しています。北方四島を抱える北海道としては、なかなか進まない領土交渉をどのように捉えていますか。
基本的に北方領土は、一度も外国の領土になったことがない固有の領土です。戦後74年経ても領土問題は解決していない状況ですが、北方四島は北海道の行政区域の一部であり、返還に向けた取り組みは道政上の最重要課題であると認識しています。
昨年3回、安倍晋三首相とプーチン大統領による首脳会談が持たれました。その結果、昨年6月の大阪で開かれたG20での首脳会談で、元島民の方々の航空機による国後、択捉島への墓参が合意され実現しました。また、北方四島における日露の共同経済活動が五つの分野で進められることになっていますが、その中で昨年はゴミ処理と観光の二つの分野でのパイロット事業が実施されました。
一方、昨年11月のチリでのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)は中止になり、日露首脳会談を持つことができませんでしたが、代わりに日露外相会談が行われました。先般、ロシアでは内閣が総辞職しましたが、引き続きラブロフ氏も外相になっています。従って、ロシアとしては今後も同じようなスタンスで領土問題に臨んでくると思われます。
道は毎年さまざまなイベントや活動を行ってますが、どのような視点を事業の柱としているのか、また2019年度の交流事業などで進展した内容があればお話しください。
領土問題に関しては道民のみならず、国民の皆さまに高い関心を持っていただくことが重要で、特に若い世代の方々には正しい理解と高い関心を持っていただき、国民世論の結集が基本的に不可欠だと考えています。これまで北海道としては道内各地のイベントにブースを設置し、またキャラクターを活用した普及活動など啓蒙活動を進めてきました。ただ、元島民の方々の平均年齢が84歳を超え高齢化が進んでいる中で、元島民の2世3世の方々、また元島民でなくとも領土問題への関心を持つ方々と共に返還要求運動の拡大を図っていくことが課題だと思っています。そこで昨年は中学生や高校生など若い世代の人たちが北方領土問題に興味や関心を持ち、返還要求運動に参加しやすい環境をつくるため「北方領土サポーター登録制度」を創設し、道内の中学、高校と連携を取りながら活動を広げているところです。
北方四島との交流事業はどうでしょうか。
ビザ(査証)なし交流、元島民のふるさと自由訪問そして墓参を柱に行っています。現在、北方四島交流船「えとぴりか」を使い島との交流事業を行っていますが、そこではワイファイが設置されており、四島を訪れる方々が、それを利用してSNSで国民に広く情報発信しています。今後、こうしたツールを使った情報発信は、国民の啓蒙啓発に有効だと考えています。
また、これまで元島民の出入域手続きが国後島の古釜布沖だったのが、昨年は水晶島での手続きが追加的に行われ元島民の負担を軽減することができました。これなどは以前からロシア側に働き掛けを行ってきたもので一つの成果と言えると思います。従って、道としては、①後継者の育成とりわけ若い世代への啓蒙啓発②北海道からの情報発信と世論の結集③高齢化する元島民への支援-を柱に北方領土返還要求運動を推し進め、政府の外交交渉を後押ししていきたいと考えています。
昨年から日露による北方四島での共同経済活動が動き始めたということですが、どのような展開になっているのでしょうか。
昨年、「観光」と「ゴミ処理」の2件を「ビジネスモデル」とすることで一致し、日露の専門家による視察往来などパイロット事業として実施しました。とりわけ「観光」においては昨年11月にパイロット・ツアーとして本州からの一般人を含め総勢44人が国後島、択捉島を訪れました。また、北方領土を訪れる前に根室管内の1市4町において返還要求運動の関連施設や歴史について話を聞いてもらう機会を設け、その上で島を訪問するということで、中標津町では町長自ら町内のガイドを買って出るなどツアー参加者からも良い反応を得ることができました。
改めて2020年度の北方領土返還要求運動の展望についてお話しください。
昨年度創設した中高校生を対象にした「北方領土サポーター登録制度」は今年も続けていきます。また、北方四島には全部で52カ所の日本人墓地がありますが、手入れされることなく荒れた状態になっています。さらに訪問する1世の方々の身体的負担を考えれば、出来る限り訪問しやすい環境を整えていきたい。
一方、2020~21年は「日露地域・姉妹都市交流年」になっています。これは昨年6月の日露首脳会談で決定したことですが、北海道としてはサハリン州との地域間交流を長年行ってきたことを踏まえ、全国に向けて日露地域間交流のモデルになると考えています。
鈴木直道・北海道知事は昨年5月、ロシア・モスクワでの「日露知事会議」に出席し、またできるだけ早い時期の北方領土への訪問を希望しています。日露双方の地道な交流を続け、互いに対話を続けることが北方領土問題解決への道と捉え取り組んでいきたいと考えています。