尖閣は本当に守れるのか

中国に隙見せるな

海上保安大学校名誉教授 日當 博喜氏に聞く

 中国が近年、尖閣周辺への公船派遣を急増させている。接続水域で確認された中国公船は昨年1年間で延べ1097隻で過去最高を記録。領海侵入も延べ126隻で、一昨年の70隻を大幅に上回った。尖閣は本当に守れるのか、海上保安大学校名誉教授の日當博喜氏に聞いた。
(聞き手=池永達夫)

海洋覇権狙い4機関一本化
対応へ海保も組織再整備

海上保安の原点は江戸時代にあったのか。

日當博喜氏

 ひなた・ひろよし 岩手県出身。昭和50年3月海上保安大学校卒業。広島大学大学院に学んだ後、同校講師。助教授を経て教授に。元副校長。日本尺八連盟大師範竹帥で竹号は「鶴山」。日本空手道連盟公認3段。 岩手県出身。昭和50年3月海上保安大学校卒業。広島大学大学院に学んだ後、同校講師。助教授を経て教授に。元副校長。日本尺八連盟大師範竹帥で竹号は「鶴山」。日本空手道連盟公認3段。

 水軍が海上警察の役割を担っていた。悪いこともしただろうが、役にも立っている。

 ただ、原点といえば戦後の話になる。海軍が解体されたものの、機雷処理では米軍も困った。日本軍が敷設した機雷だけでなく、米軍が敷設したものも、海を流れて来る浮遊機雷があったからだ。

 それと密入国問題もあったし、コレラ対策など衛生面での水際作戦も必要となった。それで軍は解体したものの、その軍に代わる実行部隊が必要となった。海上保安組織の誕生には、そうした背景があったが、その代わり、再軍備への歯止めやいろいろな制約などが課せられた。

 船の大きさから、持てる武器も制約がある中で整備されてきたのが海保だが、今、中国が頻繁に接続水域や領海に入るようになり、尖閣対応ということで組織の再整備が始まっている。

巡視船も大きくなったが、現在の危機に本当に対応できるのか。

 武器のありようも、少し考えないといけないかもしれない。相手は事実上の軍艦だからね。

中国の海上法執行機関の海警が使用する船舶は、元が軍艦だったりする。

 海警は命令指揮系統も人民解放軍の下に入ってもいる。日本は法的にも制約があって、手足を縛られている格好だが随分違う。

中国の海警公船と海上保安庁の巡視船はどう違うのか。

 巡視船は海の法を守るパトロール船であり、同時に海のパトカーや救急車でもある。

 初代長官は「正義仁愛」をモットーに掲げた。法の執行という意味では正義であり、人命救助もある。法律論だけじゃなく、仁愛精神があるのが保安庁だ。

 一方の海警は法の執行機関という任務だけで、海上交通安全業務や海上捜索救助業務は任務外だ。

日本の海上保安には、いろいろな制約がある中で、対中問題で有効な手を打てるのか。

 厳しいが、何としても守り切らないといけない。

地政学的環境が変わって尖閣強奪が可能となれば、中国は本気で尖閣を取りにくるのではと懸念している。

 中国が虎視眈々(たんたん)と狙っているのは間違いがない。

 南沙諸島などでは強引に取ってきているし、米国がいなければやっているかもしれない。

 中国には「五龍」と呼ばれる五つの海上法執行機関が存在していた。「五龍」とは、中国公安辺防海警に属していた「海警」、国土資源部国家海洋局の「海監」、農業部魚業局の「漁政」、交通運輸部海事局の「海巡」、そして海関総署の「海関」だ。

 2013年にこのうちの4機関を一本化し、「中国海警局」とした。

 尖閣諸島の周辺海域でも、中国漁船が押し寄せる際には、「海警」が登場するし、単独で「海警」の公船が領海に侵入することもある。こうした格好で中国は海洋進出を既成事実化させ、現在の海洋秩序に揺さぶりを掛ける。

 かつて北朝鮮の不審船が出没し、最近では北朝鮮の漁船がイカやカニの好漁場「大和堆(やまとたい)」に押し寄せて来る日本海は、中国、ロシア、韓国の艦船も航行するため、北海道から九州に至る日本海沿岸の海上保安部には約20隻の大型巡視船が配備されている。

ズバリ尖閣は守れるのか。

 石垣島には人材も船舶も投入している。それでも、まだ船の数が足りないのが実情だ。

 海上保安庁は2019年現在、巡視船艇・特殊警備救難艇を計443隻、測量船・灯台見回り船・教育業務用船を計22隻、航空機80機を保有している。これらの巡視船艇を全国11の管区に分け、配属している。

 尖閣諸島周辺の海域における中国船の領海侵入へ対処するため、海保は大型巡視船の新規建造を迫られた。

 気象が厳しく中国公船の領海侵入に対処する「尖閣領海警備」では大型巡視船が投入され、沖縄県石垣島にある石垣海上保安部には、大型巡視船13隻が配備されるなど、日本で最大規模となっている。那覇には4隻の大型巡視船が配備され、第11管区全体では大型巡視船は18隻を数える。

 それほど中国公船の領海侵入、さらに多数の中国漁船による違法操業が多発していることを示している。

 また、離島を狙われた場合の対処では、海保だけではできないから、自衛隊や警察との協力体制が整備されつつある。上陸したら陸上だから、管轄は警察担当となるが、警察が来るまでは海保が代わりにやるという法改正を一昨年したばかりだ。

 これまでは隙間があったが、この隙間がないようにしている。この隙間をなくすことが肝要だ。不法侵入者を海保が追っても、丘に上がると何にもできなくなるようではどうしようもない。

 米軍もそれを想定し、離島奪還作戦を練り海兵隊を動かした離島奪還訓練を行っている。

 あれは尖閣のことだ。それを中国に見せて牽制(けんせい)している。だからおいそれとは来れない。

中国の戦い方は「世論戦、心理戦、法律戦」の三戦で、包囲網を構築し締め上げてくる。ソ連崩壊直後の1992年に「領海法」を制定して、尖閣諸島の中国領有権を定めたのも法律戦の一つだ。

 中国は南シナ海の島々への実行支配を強めるのみならず、他国船舶の無害通航権を制限する法律を制定し、国際秩序を一方的に書き換えようとしている。

 こうしたやり方に対処するには、こちら側の法的整備と同時に、実効支配の実務面で隙を与えないことだ。