記録的な干ばつに苦しむブラジル
今年12月、パリにおいて、国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が開催され、地球温暖化対策の新枠組み合意が目指されている。「世界の肺」とも言われるアマゾン熱帯雨林を抱えるブラジルの現状を紹介する。
(サンパウロ・綾村 悟)
熱帯雨林の違法伐採ゼロ目指す
ブラジルが、過去50年から80年の間で最悪とも言われる干ばつに苦しんでいる。2013年に始まった干ばつの被害は年を追うごとに深刻化しており、渇水による主要水力発電所の操業停止や大都市での給水制限、農作物の生産減少にまで及んでいる。
中でも、水力発電所の操業停止、高コストの火力発電稼働による最大48%もの電気料金の高騰は、不景気に苦しむブラジル市民の生活を直撃している。「電気料金の請求書を見るのが毎月怖い」(ミルトンさん・サービス業)と悲鳴を上げる。
アマゾン川など豊富な河川を抱えるブラジルは、国内使用電力量の8割近くを水力発電に頼っているが、干ばつで貯水量はすでに底を突きかけており、これから夏を迎えるブラジルの電力需要に耐えられない可能性も指摘される。
世界気象機関(WMO)は、干ばつと強い因果関係があるとされている「エルニーニョ現象」が、今年10月から来年1月にかけて過去半世紀で最大規模のものとなると発表した。暦の上で春に入ったばかりのブラジル各地を熱波と干ばつが襲い始めている。
ブラジルのカンピーナス大学で長期的な気候変動とその影響を研究しているヒルトン・シルベイラ・ピント氏は、最近の研究結果として地球温暖化によりブラジルの農産物生産が2020年までに大豆で24%、小麦で40%の生産減少につながると指摘、さらには気象変動の影響で生産可能地域が大きく移動することもあり得るとしている。
ブラジルでの現象や研究結果を受け、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の作業部会で共同議長を務めたこともある米科学者のクリストファー・フィールド氏は、「ブラジルで起きている現象は、気候変動が地域に与える影響を知る上で手掛かりになる」と発言して注目を集めた。
ブラジルは、大豆や牛肉、オレンジ、コーヒー豆の世界最大の輸出国。米国などと並ぶ文字通り「世界の食料庫」であるが、将来も世界の需要増加に応え続けられる保証はない。
こうした中、地球温暖化対策と密接な関係がある「地球の肺」アマゾン熱帯雨林を抱えるブラジルは、経済成長とアマゾン保護の両立を目指した「持続可能な開発」の実現に向け、前ルラ政権時代から研究と対策に乗り出してきた。
アマゾン流域の地域社会を巻き込んだ計画的な経済開発と森林保護政策の結果、アマゾン地域の森林伐採はここ10年で70%近く減少した。
さらに、今年7月、ブラジル政府は「熱帯雨林伐採ゼロ」運動を発表、官民を挙げて2030年までにアマゾン熱帯雨林の違法伐採を撲滅し、植林を進めようとしている。
違法伐採で最も問題となってきたのは、農牧業を目的とした森林伐採だ。放牧目的の土地利用と森林保護という相反する目的に対して、ブラジル各地で「緑の牛」と名付けたプログラムが進んでいる。牧場の中に植林を行って暑さに弱い牛を保護すると同時に、森林保護を実現させようというものだ。
また、エコカーといえば、日本や先進各国ではハイブリッドや電気自動車(EV)などが主流だが、ブラジルではエタノール燃料を使用した「エタノール車」の普及を通じて、地球温暖化ガスの減少に取り組んでいる。現在、ブラジルで生産される自動車の半分以上がガソリン・エタノール両用車だ。
エタノール燃料はさとうきびから作られており、さとうきびの成長過程で二酸化炭素を吸収することからエタノール燃料は「ゼロエミッション」だと言われる。エタノール燃料は、バイオマス燃料と言われる石油代替燃料の一つだが、バイオマス燃料を使った場合の地球温暖化ガス削減効果は、研究結果による差があるものの、およそ1・4倍から2倍とも言われる。
「世界の肺と食料庫」という、世界の未来において欠かせない要素を併せ持つブラジル。そのブラジルで現在進行している気候変動と、未来に向けた挑戦には目が離せない。






