オバマ米政権の対イスラム国戦略、「イエメン・モデル」は成功せず

地上部隊派遣が必要と専門家

 オバマ米大統領は10日に発表したイスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」打倒に向けた戦略で、空爆をシリアに拡大する一方、戦闘部隊は派遣しない方針を強調した。だが、イラク、シリアで広大な地域を支配し、本格的な軍隊と化しつつあるイスラム国を空爆中心の作戦で打倒するのは困難で、専門家からは地上部隊派遣を伴わない戦略は成功しないとの見方が出ている。(ワシントン・早川俊行)

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10日、国民向けテレビ演説でイスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」打倒に向けた戦略を発表するオバマ米大統領(UPI)

 オバマ氏が10日に行った国民向けテレビ演説で、イスラム国打倒のモデルとして挙げたのが、イエメンとソマリアだ。両国のアルカイダ系イスラム過激派組織に対し、オバマ政権は無人機攻撃を中心とする掃討作戦を展開。過激派幹部への急襲には特殊部隊を投入するものの、通常の戦闘は米国が支援する両国の治安部隊に委ねるのが基本だ。オバマ氏は演説で、この戦略はイエメン、ソマリアで「成功」しており、イスラム国打倒にも有効との見方を示した。

 だが、両国の過激派組織の勢力は衰えておらず、オバマ政権の戦略が成功しているとは言い難い。米シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)のキャサリン・ジマーマン研究員は、イエメンでは「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が「聖域」を拡大し、高度な爆弾製造技術で航空機爆破テロの脅威をもたらし続けていると指摘。「イエメンで失敗している戦略を繰り返すことは正しい戦略ではない」と断じた。

 イスラム国はイエメンなどのアルカイダ系組織よりはるかに強力だ。米情報機関はこれまで、イスラム国の戦闘員数を約1万人と見積もっていたが、中央情報局(CIA)は最近、2万~3万1500人に大幅修正した。

 イスラム国はまた、イラク軍から米国製兵器などを奪い、「本格的な軍隊」(ブレット・マクガーク米国務副次官補)と化しているほか、広大な地域を支配下に置く。闇市場への原油販売によって1日当たり100万㌦(約1・1億円)を稼いでいるとされ、資金も潤沢だ。

 米シンクタンク、外交評議会のマックス・ブート上級研究員は、最近の論文で「イスラム国は数十、数百回の空爆で根絶できる脅威ではない」と断言。イラク軍、クルド人治安部隊、シリア反体制派の極めて限られた能力を大幅に向上させるには、現場での米軍のサポートが不可欠であり、ブート氏は1万~1万5000人の兵力派遣が必要だと主張する。

 ワシントン・ポスト紙によると、ロイド・オースティン中央軍司令官は、特殊部隊を中心に「中規模」の地上部隊を派遣すべきだと進言したが、地上での戦闘任務には関与しない方針にこだわるホワイトハウスは、これを拒否したとされる。代わりに475人の追加派遣を決めたが、既に現地にいる米兵と合わせても派遣規模は1500人程度で、あくまで最小限の軍事介入にとどめる意向だ。

 オバマ氏は演説で「イラク、アフガニスタン戦争とは異なる」と述べ、地上部隊を大規模展開したブッシュ前政権とは異なる手法でイスラム国打倒を目指す姿勢を鮮明にした。

 だが、「反ブッシュ」にこだわるあまり、逆に2007年まで十分な戦力を投入せずイラク情勢の泥沼化を招いたブッシュ政権の失敗を繰り返す恐れもある。ブート氏は「ブッシュ氏の過ちを繰り返さないよう、最小限の兵力ではなく、目的を達成するために資源を投入すべきだ」と主張した。

 ワシントン・タイムズ紙は「地上部隊を派遣せずにイスラム国の打倒を試みても失敗する運命にあると、安全保障専門家は指摘している」と報じた。