オバマ米政権、海軍戦闘艦数を「水増し」

「危険な欺き」と有力議員

 米軍の戦闘艦が瞬時に10隻増加――。米海軍はこのほど、艦艇数の算出方法を変更した。これにより、283隻だった戦闘艦の総数は293隻に。国防費の大幅削減によって海軍戦力が急速に縮小していることへの批判をかわす数字上のトリックであるとの見方が強い。オバマ政権による戦力の“水増し”に対し、有力議員からは「危険な欺きだ」との批判が出ている。
(ワシントン・早川俊行)

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米海軍の戦闘艦数「水増し」を批判するランディ・フォーブス下院議員(早川俊行撮影)

 レイ・マブス海軍長官が今月7日に議会に通告した算出方法の変更により、これまで戦闘艦に含まれていなかった警備艇や病院船、高速輸送船が加えられることになり、戦闘艦の総数は10隻も増えることになった。変更理由について、マブス氏は「我々は艦艇の数え方を定期的に査定しており、今回の変更は指揮官たちの要望をより反映するものだ」と説明した。

 だが、実際は、海軍戦力が縮小していないと見せかける苦肉の策であるとの見方が支配的だ。米メディアによると、算出方法を変えなかった場合、フリゲート艦や潜水艦などの退役により、戦闘艦の総数は来年、270隻近くまで減少するはずだった。

 これについて、下院軍事委員会のランディ・フォーブス海軍力・軍事態勢小委員長(共和党)は、「一隻も建造されていないのに、一隻も就役していないのに、283隻だった艦艇が一夜にして293隻になった。オバマ政権は実体のない海軍をつくり出している。危険な欺きだ」と厳しく批判している。

 2015会計年度(14年10月~15年9月)の国防予算によると、イージス巡洋艦11隻が近代化改修費用を捻出するため、待機状態に置かれる。だが、これらの艦艇も戦闘艦の総数に加えられている。

 フォーブス氏は「待機状態に置かれる艦艇をカウントすべきだとは思わない。国防費の強制削減が海軍力にいかに激烈な影響を与えているか、議会や米国民に見えるようにすることが必要だ」と指摘。戦力水増しにより、国防費削減に対する議会や国民の危機意識が低下することに強い懸念を示した。

 中国の海洋進出が地域の安定を脅かす中、米海軍の縮小は日本などアジア諸国の深刻な懸念材料になっている。だが、オバマ政権は国防費削減の流れを反転させるよりも、アジア重視のレトリックや戦闘艦数水増しなどにより、戦力低下のイメージを軽減することを優先しているようだ。