暗雲漂う米のアジア重視、国防費削減で対中抑止力低下
米国防総省は最近発表した「4年ごとの国防計画見直し(QDR)」で、「リバランス(再均衡)」または「ピボット(基軸移動)」と呼ばれるアジア太平洋重視政策を継続する方針を示した。だが、国防費の大幅削減によって深刻な戦力低下の流れが鮮明になっており、軍備増強に邁進(まいしん)する中国に対して抑止力を維持できるか、極めて疑わしい。
(ワシントン・早川俊行)
国防総省は4日にQDRを公表したが、その同じ日、カトリーナ・マクファーランド国防次官補(調達担当)は、ワシントン郊外で開かれた会合で、アジア重視継続を強調したQDRとは全く異なる見解を明らかにした。
「現在、ピボットは見直しが行われている。なぜなら、率直にピボットは起こりえないからだ」
軍事専門誌「ディフェンス・ニュース」(電子版)がこの発言を報じると、同次官補は報道官を通じて「アジアへのリバランスは継続される」と発言を訂正。だが、国防費の大幅削減でアジア重視政策の具体化が困難な現実に直面する国防当局の“本音”が出たものと受け止められている。
QDRはアジア重視の具体策として、①2020年までに海軍艦艇の6割を太平洋に配備②シンガポールに最新鋭の沿海域戦闘艦(LCS)を配備③海兵隊のオーストラリア北部へのローテーション(巡回)駐留を2500人に拡大――などを挙げているが、どれも従来の方針を再確認したにすぎない。
中国とのせめぎ合いの主戦場となるのは海と空。厳しい予算の制約下で対中抑止力を維持するために犠牲になるのが陸軍で、ピーク時の57万人から第2次世界大戦参戦前の1940年以降では最小の44万~45万人に大幅削減される。
海空軍も国防費削減の大きな影響を受けるが、装備の近代化は進めていく。海軍はバージニア級攻撃型潜水艦とアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦を年2隻ずつ調達。空軍は新型のステルス戦闘機F35、空中給油機KC46の調達と次世代長距離爆撃機の開発に力を入れる。
だが、これらの計画は来年以降、国防費の強制削減が撤廃されるという「ひどく楽観的」(軍事専門家)な見通しに基づくものだ。強制削減がそのままなら、陸軍はさらなる兵力削減を強いられ、海空軍の近代化計画にも深刻な支障をもたらす。海軍の空母11隻体制の維持も不可能になる。
QDRはLCSの配備をアジア重視策の一つに位置付けているが、一方で、「LCSが先端軍事力を持つ敵に対し、特にアジア太平洋地域で生き延びられる防御と火力を備えているか精査する」と指摘。近代化が進む中国軍の前では、LCSは役に立たないと言っているに等しい。「沿岸警備隊が使うような船」(議会関係者)と酷評されていたLCSの調達計画は結局、予定の52隻から32隻で凍結された。
国防費削減で打撃を受けているのは兵器の調達だけではない。保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)のトーマス・ドネリー、ゲーリー・シュミット両研究員は「訓練資金不足により、部隊の即応態勢は危険なほど低下している」と指摘する。
ディフェンス・ニュースが国防関係者350人以上に行った調査によると、62%が予算の制約や中東の混乱により、アジアへのリバランスを進める余裕はないと回答した。
国防費削減に苦しむ米軍とは対照的に、中国は2014年の中央国防予算を前年比で12・2%も増加させた。このトレンドの中で、米国が戦略の比重をアジアに移したとしても、対中抑止力を維持するのは難しくなりつつある。






