ベネズエラの大統領退陣デモで多数の死傷者

 南米ベネズエラで、反米左派ニコラス・マドゥロ大統領(51)の退陣を求める反政府デモが長期化し、国内を2分する政治問題となっている。近隣諸国はあくまでも国内問題との姿勢を保持しており、反大統領派と政府側の対話も進んでいないのが現状だ。(サンパウロ支局)

野党指導者一時拘束も

与党内からも批判

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カラカスで治安部隊と対峙するデモ隊。2月22日CNNが放映

 ブッシュ元米大統領を国連総会の場で「悪魔」とまで呼んだ反米の闘士、故チャベス・ベネズエラ大統領が、昨年の3月5日に死去して1年が過ぎた。

 チャベス大統領は、1999年に大統領に初就任すると、その後再選を繰り返し、親米国だった原油産出国のベネズエラを「21世紀型の社会主義実現」に向けて大きく舵(かじ)を切った。

 同大統領は、世界有数の原油輸出国としての財政力を背景に貧困層を中心とした社会保障制度を充実させ、熱狂的なチャベス支持者らを中心に高い支持率を保持してきた。

 チャベス氏による、政権に批判的なメディアの閉鎖や相次ぐ企業の国営化などは、国内外から強い批判も受けたが、同大統領が持つカリスマ性と国民からの支持が、強硬な政権運営を可能にしてきた。

 そのチャベス大統領ががんに冒され、余命わずかとなった際、後継者として選んだのが、現職のマドゥロ大統領だ。

 マドゥロ氏は、昨年4月に正式に大統領に就任して以来、これまでチャベス氏の政策を踏襲した政治を行ってきた。

 ただし、ベネズエラ国内は、近年の原油輸出額の落ち込みや財政収支への不安などから50%を超えるインフレ率や高い失業率が続き、生活必需品の深刻な不足などから国内の不満が大きくなっている。

 こうした中、先月初めからインフレや治安悪化などをマドゥロ大統領の失政として、同大統領の退陣を求める反政府デモが続いている。

 反政府デモは当初、学生を中心とした現政権に対する抗議活動から始まったが、野党リーダーの一人でもあるレオポルド・ロペス氏が反政府デモへの参加を呼び掛けると多くの支持者が集まることになった。

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2月21日、カラカスで記者会見するベネズエラのマドゥロ大統領(EPA=時事)

 先月12日のデモでは、反政府デモ隊と大統領支援者らの衝突がエスカレートして、反政府デモ側に死者が出る事態にまで発展、その後のデモ活動の火に油を注ぐ結果となった。

 政府側は、死者を出すことになった責任を、ロペス氏に転嫁し一時拘束したが、デモは収束するどころか、首都カラカス以外の都市にも広まっている。

 反政府デモの広がりに対して、ベネズエラ政府は国軍や特殊部隊を投入して鎮圧を図った。これまでに死者21人と負傷者300人以上を出しており、当局による逮捕者は1100人を超えている。反大統領派は、暴力を伴ったデモ鎮圧を批判、多くの犠牲者を出した事態をマドゥロ大統領の責任だとして追及しているが、大統領側は反大統領派の訴えを一蹴している。

 その一方で、国軍を投入したデモ隊鎮圧には、与党の重鎮政治家の中からも批判の声が上がり始めている。与党内の分裂は、カリスマ性が非常に強く国民からの強い支持を得ていたチャベス政権時代には考えられなかったことだ。今後、マドゥロ大統領が反政府デモに対し強硬姿勢を続ける場合、チャベス政権時代に一枚岩だった与党・ベネズエラ統一社会党内から造反者が出て、政権基盤に影響を与える可能性も否定できない。

 ベネズエラの国内情勢が悪化する中、ラテンアメリカなどの周辺諸国も同問題への対処を促されている。

 経済が悪化しているとはいえ、ベネズエラは世界有数の産油国であり、キューバなどに原油を優先的に供給している。ベネズエラの政治的安定は、左派系(特に反米左派)の中南米諸国にとっては重大な問題だ。

 こうした中、米州機構(OAS)は今月7日、ベネズエラ問題に関する緊急会合を開催したが、加盟国は賛成多数で「ベネズエラの問題はあくまでも国内問題であり、平和的な対話で解決されることを望む」との声明を出すにとどまった。ベネズエラとマドゥロ政権を支持する周辺国の意向を反映した声明だ。

 米州機構の声明などを受けて、マドゥロ大統領は反大統領派に対して対話を呼び掛けているが、反大統領派は「対話の前に逮捕されたデモ参加者らを解放すべきだ」と反発、野党リーダーのカプリレス前大統領候補は「反政府デモのうねりをベネズエラの歴史に残る社会改革運動につなげたい」とデモの継続を訴えている。

 ベネズエラの国内情勢に対して、在ワシントンの中南米問題を研究するシンクタンク、インター・アメリカン・ダイアログのマイケル・シフター研究員は「(反大統領派だけでなく)多くの故チャベス大統領支持者も、現政権に対して不満を抱えているはずだ。ただ、その多くが反対派に流れていないのが現状なのだ」と分析している。