プーチン大統領 側近を開発事業の司令塔に
極東シベリア開発、仕切り直
プーチン政権の最重要課題の一つでありながら、進展の遅れが目立つ極東シベリア開発計画をめぐり、プーチン大統領が仕切り直しを進めている。極東連邦管区大統領全権代表と極東発展相にそれぞれ側近を据えるとともに、権限を極東発展省に集中させる組織改変を行った。シベリア鉄道とバム鉄道の近代化に資金を集中的に投じ、開発を前進させる構えだ。
(モスクワ支局)
シベリア鉄道、バム鉄道近代化を推進
「ウラジオストクは極めて遠いが、我々の街だ」。かつてレーニンが述べたこの言葉は、ロシアにおける極東地域の地位をよく表している。極東は確かにロシアではあるが、「遠い地域」であり、ロシア欧州部に住む人々の関心は薄い。
ソ連時代から「極東シベリアを開発しアジア太平洋地域に積極的に関与する」という政策が幾度となく打ち出されたが、それがまともに実行されたことはなかった。
風向きが変わってきたのはここしばらくのことだ。極東シベリア地域の人口減少と中国移民の流入などを目の当たりにして、ロシア政府は真剣にこれら地域に向き合わざるを得なくなった。プーチン大統領やメドベージェフ首相らが極東の重要性を国民に訴え、大きな行事があるごとに極東に足を運ぶようになった。
極東シベリア地域の住人にとって、極東が脚光を浴びることは文句なしに嬉しいことであり、プーチン大統領やメドベージェフ首相の訪問を歓迎している。しかし同時に、彼らは中央政府を毛嫌いしており、大統領や首相が来たからといってそれが変わる訳ではない。中央政府は統治し自分たちのやり方を押し付けるだけで、極東シベリアの人々の声に耳を傾けようとはしない、という長年にわたる反発が背景にある。
地方・州政府内でもそれは同じであり、中央政府が進める極東開発計画に対する空気も冷ややかだ。政府与党「統一ロシア」は極東シベリア地域の選挙で敗北し、ウラジオストクなどでも共産党が議会の多くを占める。反モスクワ、反プーチンが、極東シベリア全体を覆う空気だ。
この極東シベリア地域の開発を推進する司令塔が、極東発展省と極東連邦管区大統領全権代表府であり、その双方のトップを兼任していたのが極東地域の実力者イシャエフ氏だ。元ハバロフスク地方知事のイシャエフ氏は、エリツィン時代を代表する地方政治家の一人として知られる。
プーチン大統領は8月31日、そのイシャエフ極東発展相兼極東連邦管区大統領全権代表を解任し、後任の同全権代表兼副首相にトルトネフ大統領補佐官、極東発展相にガルシカ「実業ロシア」共同議長を充てる人事を行った。トルトネフ氏はプーチン大統領の側近中の側近で、ガルシカ氏はプーチン政権に極めて忠実な実業家の団体「実業ロシア」のトップだ。
プーチン大統領はさらに今月21日、極東開発のもう一つの国家機関である極東開発国家委員会を廃止した。プーチン大統領は、側近を据えた極東発展省に権限を集中させ、中央主導で開発事業を推し進める構えだ
ガルシカ氏はベロウソフ大統領補佐官(経済担当)や、ヴォロージン大統領府第一副長官と太いパイプを持ち、彼らを後ろ盾に極東開発を進めることになる。早速ベロウソフ大統領補佐官は、今後4年間に5200億ルーブル(約1兆5600億円)を極東開発に投じ、第一段階として、バム鉄道とシベリア鉄道の近代化を行うと表明した。
もっとも、これまでの歴史が示すように、極東開発計画に投じられたカネは汚職と非効率な官僚機構にのみ込まれてきた。今回の人事と組織改変が吉と出るのか、結論が出るのはまだ先のことだ。