宗派・セクト間の闘争拡大-イスラム教
穏健派指導者は収拾に動かず
レバノンの首都ベイルート南郊にあるイラン大使館前で19日、連続自爆テロがあり、同大使館員1人を含む23人が死亡、146人が負傷した。国際テロ組織「アルカイダ」系武装組織「アブドラ・アッサム旅団」が犯行声明を出した。イスラム教内闘争が拡大の一途を辿(たど)っている。
(カイロ・鈴木眞吉)
同旅団は声明の中で、シーア派主体のシリアのアサド政権支援のために兵士を送っている、レバノンのイラン系シーア派民兵組織「ヒズボラ」と、その黒幕であるイランに対し、シリア内戦への介入をやめるよう要求した。
この戦いは、イスラム教内のスンニ派とシーア派間の「宗派闘争」の典型的な事例だ。同様の「宗派闘争」は、レバノンやシリアのみならず、イラク国内でも熾烈(しれつ)で、今年後半は、毎月1000人前後の死者を出している。
最近では14日、首都バグダッドの北方にあるディヤラ州首都の南にあるハリフヤ町、イラク北部の石油都市キルクークなど数都市で、シーア派の祝祭日「アシュラ」を祝う巡礼団が、スンニ派過激派グループの攻撃を受け、44人が死亡した。ディヤラ州では警官に変装した男が自爆し、32人が死亡、80人が負傷した。
アシュラの巡礼団を狙うテロは、毎年繰り返されながら、今年もまた、多くの犠牲者を出した。両派の宗派闘争は事実上、野放し状態になっている。
シーア派国家のイラン、シリア、イラクと、スンニ派のサウジアラビアなどのアラブ諸国は、シリア内戦やイランの核開発問題をめぐり、熾烈な戦いを演じている。
さらに同じスンニ派ながら、アルカイダに代表される、イスラム法の絶対性を掲げ、聖戦の名のもとに暴力行使をいとわない過激派諸組織と、スンニ派の権威アズハル(本部・カイロ)に代表される穏健な組織との間の対立もエスカレートしている。
一般的には穏健派組織とみられていても、モルシ・エジプト前大統領の支持基盤、「ムスリム同胞団」は、「イスラム法によるイスラム国家創建」を掲げて、武装闘争も辞さない体質を持っている。ムバラク・エジプト前大統領時代は、「過激派を生む温床」として非合法化されていた。さらに神秘主義的傾向を持つ、より過激なサラフィ主義者のヌール党もある。これらのスンニ派の過激派は、近代的な教育を受け、国際的視野を持ち、他宗教との共存を志向する「目覚めたリベラルな穏健派」と対立関係にある。
ここにきてアルカイダ系組織内でもセクト間の分裂・対立が表面化した。シリアの反体制過激派組織「ヌスラ戦線」と「イラクとレバントのイスラム国家」がシリア国内で対立、アルカイダの最高指導者ザワヒリ氏が仲介を試みたものの失敗した。
イスラム教がこれほど細分化されたのは歴史上初めてとみられるが、細分化だけならまだしも、対立に伴うテロが頻発している。
また、イスラム法を掲げる過激派は女性にニカブ(頭から爪先まで覆う黒い服)の着用や過酷な刑法を強制するなど、死傷者の増大と文化的弾圧を実行している。
イスラム教内の分裂や抗争、殺戮(さつりく)を収拾する責任はまずもってイスラム教指導者にあるはずだ。しかしいまだに公然と「イスラム指導者の責任」を認め、収拾に動く人物が登場してこない。穏健派指導者は「政治家の仕事だ」「テロを行う者はイスラム教徒ではない」と逃げを打ち、パレスチナ問題を前進させない「米国やイスラエルに責任がある」と非難する。宗派・セクト間の闘争と犠牲は拡大する一方だ。






