勢力拡大する「イスラム国」
オバマ米政権がイラクで勢力を拡大するイスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」への空爆に踏み切った。2011年12月の駐留米軍撤収後、武力行使には慎重だった同政権が方針転換したのは、イスラム国の戦闘能力が放置できないレベルにまで向上しているためだ。(ワシントン・早川俊行)
「今や本格的な軍隊」
対米テロ攻撃も視野に
「イスラム国はもはや単なるテロ組織ではない。今や本格的な軍隊だ」――。
ブレット・マクガーク米国務副次官補(イラク・イラン担当)は先月下旬、下院外交委員会の公聴会で、イスラム国の高い戦闘能力に深刻な懸念を表明した。
オバマ大統領が7日の緊急会見で、空爆を承認した理由として挙げたのが、進撃を続けるイスラム国がクルド人自治区の中心都市アルビルに迫っていることだった。勇猛なことで有名なクルド人治安部隊であれば、進撃を防げるとの見方もあったが、実際はイスラム国に押され続けている。イスラム国はイラク軍から米国製装備など高性能の兵器を奪っており、支配地域の拡大とともに戦闘能力も高めていたのだ。
そもそもイラクとシリアという二つの地域で同時に戦闘を展開していること自体、イスラム国の高い組織力を証明するものだ。米シンクタンク、ランド研究所のパトリック・ジョンソン氏は、ワシントン・タイムズ紙に「一つの組織が二つの国に同時に戦力投入できる能力を持つのは前例がない」と指摘。米情報機関当局者も、同紙に「イスラム国はおそらく近年で最強だ」と語った。
イスラム国の兵士1万人以上のうち、イラク、シリア人は約半数で、残りは外国人とされる。ソーシャルメディアを活用して兵士をリクルートしている点も、組織力の高さを物語るものだ。国防総省の推計では、毎月、最大50人の自爆テロ志願者がイラクに流入しているという。
イスラム国はイラクとシリアで油田、ガス田の制圧を進めている。彼らはエネルギーを資金源にする一方、支配地域には低価格で販売し、人心掌握に利用。極めて巧妙に勢力を拡大しており、米シンクタンク、外交評議会のジェニン・デービッドソン氏は「イスラム国は伝染力を強める一方だ」と危機感を募らせる。
米国にとってイスラム国の伸長を放置できない最大の理由は、イスラム国の支配地域が対米テロ攻撃の拠点となる可能性が高いためだ。
米議会調査局の報告書は、複数の情報機関代表者が「イスラム国は対米攻撃の意図を持ち、それを実行する人物をリクルート、訓練している」と述べたことを挙げ、イスラム国が対米テロを視野に入れていることは確実だと警告。ロサンゼルス・タイムズ紙によると、イスラム国の外国人兵士のうち、最大3000人が欧州など西側諸国のパスポートを所持し、米国のパスポート保有者も最大100人いるという。
オバマ政権はアルビル近郊で空爆を開始したが、あくまで限定的な攻撃であり、イスラム国の勢力を大幅に減退させるほどの効果を持つとは考えにくい。軍事介入は最小限にとどめ、挙国一致政権樹立による国民和解を待つのがオバマ政権の基本姿勢だが、イスラム国のさらなる拡張を許せば、手遅れになるとの懸念が出ている。






