「反日」は来年総選挙に有利、韓国与党配布の報告書が波紋

 日本との関係悪化は来年4月の総選挙で与党有利に働く―。このほど韓国与党・共に民主党の国会議員が日韓関係悪化を選挙に利用すべきと書いた報告書が発覚し、大きな波紋を広げている。安全保障や経済などで緊密な協力関係を築いてきた日本との関係を犠牲にしてまで自分たちの権力固めに走ろうとする姿に、同じ左派陣営からも批判が上がっている。
(ソウル・上田勇実)

文政権の本音?批判殺到

 共に民主党のシンクタンク、民主研究院は先月末、日本による対韓輸出優遇措置の見直しをめぐる日韓対立が来年の総選挙に及ぼす影響をまとめた対外秘の報告書「韓日葛藤に関する世論動向」の中で、「日本に断固たる態度で臨むのが総選挙に有利になる」と記した。報告書が所属議員全員に電子メールで送られたことをきっかけに明るみになった。

800

2日、ソウルにある日本大使館前で「ノー安倍!」と書かれたプラカードを持ち抗議する韓国の市民(AFP時事)

 報告書の作成・配布を主導したとみられているのは同研究院の院長を務める楊正哲氏。1980年代の韓国外国語大学在学中、反米運動に身を投じた典型的な「386世代」(60年代生まれで80年代に学生運動をした、この言葉が生まれた当時30代だった左翼活動家)で、文在寅大統領が師と仰ぐ盧武鉉元大統領の下で秘書室広報企画秘書官を務めた。

 報告書は韓国社会世論研究所が先月26日、27日に実施した世論調査の結果を基にしており、研究所は「日本の無理な輸出規制で惹起(じゃっき)された韓日葛藤に対する各政党の対応が総選挙に影響を与えるだろうという意見が多い」とした上で、「総選挙への影響は肯定的だろう」と指摘した。

 また「(保守系で最大野党の)自由韓国党に対する『親日』批判は支持層結集効果があるが、それほど大きくはない」とし、「『親日』批判に共感する人が49・9%、共感しない人が43・9%で、共感が相対的にそれほど多くないのは政策的問題ではなく、(与野党間の)『戦争』というフレームに対する反感からだと思われる」と分析した。

 さらに青瓦台(大統領府)高官らが示唆し始めている日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)については「日本による韓国の『ホワイト国』除外への対応としてGSOMIAを破棄することに自由韓国党の支持層だけ除けば賛成が多かった」としている。

 総じて日本への強硬姿勢を総選挙に政治利用しようという、国益無視の権力固めを促したものと言える。

 報告書の中身がメディアなどで伝えられると、大きな波紋を広げた。自由韓国党の羅卿瑗院内代表は「もしかしたらと思っていたことがやはり本当だったのかという気持ち。与党が親日批判にこだわったのは総選挙勝利のため以外の何物でもなかった」とした上で、文政権を「(日本に対し)感情的対応だけ乱発して無能、無責任を超えた狡猾(こうかつ)な勢力」「政権延長の政治的利益だけが頭にあって、国益も外交も国民の生活も眼中になく、難局突破の解決方法を探すどころか選挙戦略だけに考えをめぐらしていた」と辛辣に批判した。

 また中道左派の民主平和党は論評で「“日風”(日本との対立)で総選挙を勝とうという戦略を描いた楊院長は即刻辞任すべきだ」と迫り、同党代表で、かつて与党前身の大統合民主党から大統領選に出馬したこともある鄭東泳氏も与党に公式謝罪を求めた。

 行き過ぎた「反日」を選挙利用しようという文政権の本音に韓国内から一斉に批判が殺到した形だ。

 騒ぎが大きくなるや同研究院は「不適切な内容が不適切に配布された。十分な内部検討なしに不適切な内容が出てしまった」と弁明し、与党幹部も楊院長と研究院に注意を促したという。

 ただ、「実際には総選挙戦略を議論する相当数の与党国会議員たちは『反日対親日』の構図で戦うことを歓迎している雰囲気」(韓国紙・韓国日報)だという。今月半ばには光復節(日本統治からの解放記念日)や慰安婦を称(たた)える日など、ただでさえ国民の反日ナショナリズムが高揚する行事が立て続けに予定されている。

 しばらくはこのまま感情的な反日路線を続ける可能性が高そうだ。