3回目米朝会談は北朝鮮がまた「非核化」小出しか

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による3回目の首脳会談の可能性が浮上している。先々月、ベトナム・ハノイでの2回目会談は米国の核全廃要求に北朝鮮が応じず決裂したばかりだが、両首脳は早くも再々会談に意欲を示している。ただ、会談成果のカギを握る金正恩氏は従来の非核化小出し戦術に固執する構え。会談実現の見通しは立っていない。
(ソウル・上田勇実)

正恩氏「ハノイ再現はない」
米大統領選前の年内開催促す

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信によると、金正恩氏は12日、最高人民会議(国会に相当)で施政方針演説を行い、3回目会談について米国に対し、2回目会談のように北朝鮮に一挙に完全非核化を求めるようなことはせず、段階的非核化で交渉に応じるよう促した。核全廃には応じないまま制裁緩和を引き出そうという、北非核化への国際社会の期待を一蹴する“ウリ式”会談に誘った形だ。

最高人民会議(国会に相当)

11日、平壌で行われた北朝鮮の最高人民会議(国会に相当)第14期第1回会議(朝鮮通信・時事)

 ハノイ会談はトランプ氏が金正恩氏に寧辺核関連の廃棄以外にもウラン濃縮施設やミサイル基地、核弾頭の廃棄などを求め、これに驚いた金正恩氏が応じられなかったことで決裂したとみられている。その後、金正恩氏の同会談や次回の3回目会談に対する考え方は明らかになっていなかったが、今回の演説でその詳細が判明した。

 金正恩氏は演説で、まず昨年6月にシンガポールで行われた初の米朝首脳会談とその合意を「敵対関係にあった朝米が新しい関係の歴史を書いていくことを世界に知らしめた宣言」と高く評価した。

 しかし、一方のハノイ会談については自分たちは「必ず経なければならない段階と経路を定め、より信頼できる措置を講じる決心を見せた」のに米国は「実践不可能な方法に対してのみ頭を使い会談に臨んできた」と、決裂の責任を米国に押し付けた。

 金正恩氏がシンガポール会談を評価し、ハノイ会談にダメ出ししたのは、自分たちの非核化小出し戦術がトランプ氏に受け入れられたか否かによるものだ。

 その上で金正恩氏は「われわれも対話と交渉を通じた問題解決を重視する」とし、トランプ氏が言及した3回目会談に意欲を見せつつも、米国に厳しい前提条件を突き付けた。

 最初から北朝鮮に核全廃を求めるような「米国式対話法には興味がない」とし、米国は「今の計算法(解決方法)をやめて新しい計算法でわれわれに近寄る必要がある」と注文。「ハノイ会談のような会談の再現は歓迎しないし、やる意欲もない」と念押しした。

 会談開催時期について金正恩氏は「今年末までは忍耐心をもって米国の英断を待つ」と述べた。来年に入ると、トランプ氏は再選を懸けた大統領選で忙しくなり、北朝鮮問題に本腰を入れられなくなると判断した模様だ。

 これまで北朝鮮は、米国と首脳会談をするたびに橋渡し役を買って出た韓国・文在寅政権の親北朝鮮路線をうまく活用してきた。それは、米朝対話の総責任者に対韓国政策を仕切る統一戦線部でトップを務める金英哲・党副委員長を立ててきたことにも表れている。米朝対話ではいつの間にか「南北対米国」の構図が出来上がり、文氏は国際社会に向かって「金正恩氏は本当に非核化する気がある」と代弁してきたほどだ。

 ところが、金正恩氏は今回の演説で「南朝鮮(韓国)当局は仲裁者、促進者の振る舞いをするのではなく、民族の利益を擁護する当事者にならなければならない」とし、文政権に強い不満をぶつけた。これまで以上に北朝鮮擁護に徹せよ、と言わんばかりだ。

 文大統領は金正恩氏演説の前日、ワシントンでトランプ氏と首脳会談を行い、北朝鮮が望んでいる金剛山観光と開城工業団地の操業の再開に向け、両事業を制裁対象から外す措置を頼んだが、断られた。これを見た金正恩氏から発破を掛けられた形だ。

 韓国では文大統領が3回目米朝会談の実現に向け、近く北朝鮮に特使を派遣するとの観測が広がっている。だが、米国には制裁緩和を断られ、北朝鮮からはさらなる無理難題を押し付けられる恐れもある。米朝の板挟みに遭えば橋渡し役を十分果たせなくなるのは必至だ。