文氏側近を政権守れず
韓国与党の大統領候補ら実刑
求心力低下?派閥争いも
前回の韓国大統領選挙で側近などとして文在寅氏の当選に尽力し、2022年の次期大統領選への出馬が取り沙汰される与党「共に民主党」の金慶洙・慶尚南道知事(51)と安熙正・前忠清南道知事(53)が相次ぎ実刑判決を受け波紋が広がっている。これをめぐり政権の求心力が「次期候補」を守れないほど低下し、各候補を擁立する派閥間の争いが招いた結果ではないかとする見方も出ている。
(ソウル・上田勇実)
ソウル中央地裁は先月30日、前回大統領選でインターネット上の不正な書込み操作に介入し世論を誘導しようとした疑いで起訴されていた金知事に対し、業務妨害罪で懲役2年の実刑判決を下した。金知事は共犯の与党党員の男に世論操作の見返りとして駐仙台韓国総領事のポストを与えようとした公職選挙法違反容疑でも懲役10月、執行猶予2年の有罪判決を受けた。
また今月1日には、性的暴行被害を繰り返し受けたとして女性秘書に告発され、一審無罪で控訴審中だった安前知事に対する判決公判がソウル高裁で開かれ、強制わいせつ罪などで一審を破棄する懲役3年6月の実刑が言い渡された。
2人に共通するのは金知事も安前知事も与党陣営の有力な次期大統領候補に挙げられていた点だ。金知事は文氏の大統領選期間中、数人から成る最側近グループの一員として毎日のように戦況をチェックしたり演説内容を検討していたいわば「文在寅キッズ」の一人で、文氏と同じ南東部・慶尚南道の出身。安前知事は文氏が当選直後に野外演説したお立ち台に登り、文氏の頬にキスをする熱愛ぶり(?)を見せつけた。その2人の相次ぐ実刑には与党内の大統領選レースが影を落としている可能性があるという。
金知事の場合、「与党陣営内に競争相手の金知事を落馬させ、文政権に致命的打撃を与えた方が自分が推す候補が有利になると思っている人がいる」(韓国大手シンクタンク幹部)。また安前知事のケースは「青瓦台(大統領府)内の次期候補が安氏を排除しようという思惑を抱いていたことと無縁ではない」(韓国保守系紙論説委員)ようだ。
すでに水面下では与党陣営内で次期大統領選をにらんだ派閥争いが起こり、政権求心力が低下し始めているとも言われる。実際、金知事、安前知事のほかにも朴元淳ソウル市長や在宅起訴された李在明・京畿道知事を推すグループ、元盧武鉉大統領に近い柳時敏・元保健福祉相などの親盧派、李洛淵首相など全羅道出身勢力などいくつもの派閥が入り乱れている(表参照)。
昨年は南北・米朝首脳会談で高揚感に包まれた文大統領だったが、3年目に突入する今年はそろそろ政権再創出のシナリオを描きたいところ。だが、経済失政で厳しく批判され、北朝鮮の非核化も思うように進まず、70%台だった支持率は40%台に落ち込んだ。そこに降り掛かった金知事の実刑判決は政権としては手痛い。
ところで、判決をめぐり韓国メディアは「法治国家、民主主義国家である以上、司法の判断は尊重されて当然であり、判決結果が政争の具に転落してはならない」(ニュース専門チャンネルYTN)と正論をぶっているが、実際には真逆の光景が展開されている。
与党陣営は、金知事に判決を下した裁判官が元徴用工訴訟の審理を意図的に遅らせたなどとして先日、逮捕された韓国大法院(最高裁)の梁承泰長官の秘書役だったことから「報復判決だ」などと色をなして反発、判事の弾劾まで検討し始めた。
元徴用工訴訟をめぐり昨年10月、大法院が日本企業に対する賠償命令判決を確定させた件で、文政権も、共に民主党も「司法判断を尊重する」と三権分立重視を強調していたが、どういうわけか金知事判決については公然と「司法判断に不服従」の構え。
同じ司法の判断でも日本絡みと政権側近絡みで態度を180度変えるダブル・スタンダードを露呈させた格好だ。







