韓国政府が北に忖度? 制裁解除を示唆
 韓国政府が2010年から北朝鮮に科している独自制裁「5・24措置」の解除を示唆し波紋が広がっている。北朝鮮の完全非核化を見届ける前に対北制裁の解除に踏み切る考えをにじませたもので、保守派は強く反発している。
(ソウル・上田勇実)
「撃沈事件謝罪が先」保守反発
世論6割、経済協力に肯定的
文在寅大統領は12日、大統領府で英BBCのインタビューに応じ、「北朝鮮の非核化がある程度の段階に達すれば、経済制裁を徐々に緩和していくことも検討すべき」と述べた。
康京和外相も先週、国会の国政監査で与党、共に民主党の李海瓉代表が5・24措置を解除する用意はあるかと質問したのに対し「関係省庁と検討中」と答えた。いずれも文在寅政権として同措置解除に言及したものだ。
5・24措置とは、2010年3月に韓国北西部の白翎島沖で起きた北朝鮮による哨戒艦撃沈事件を受け、当時の李明博大統領がソウルの戦争記念館でテレビ中継の中、発動した対北制裁だ。
金剛山観光と開城工業団地を除く訪朝禁止、南北間の貿易中断、対北新規投資禁止、北朝鮮船舶の韓国領海航行不許可、対北支援事業の原則保留、人道支援を含む対北支援の中断などが骨子である。
先月の南北首脳会談には、制裁が解除された場合、手始めに再開が予想される金剛山観光を統括してきた現代グループの玄貞恩会長や開城工業団地の申漢竜企業協議会会長も同行し、外資誘致を担当してきた北朝鮮の李竜男副首相との懇談に参加するなど解除後を見越した「地ならし」も行われた。
制裁解除示唆に保守派はすぐさま反発している。最大野党、自由韓国党の尹永碩報道官は「5・24措置の大半は国連安保理決議に基づく対北制裁に含まれ解除は不可能。(もし解除した場合)国際社会の連携に深刻な亀裂を生じさせる」と指摘、「北非核化の進展なく制裁解除を云々(うんぬん)する康外相は金正恩のスポークスマンなのか大韓民国の長官なのか」と批判した。
最大手紙の朝鮮日報は社説で「5・24措置を解除するには哨戒艦撃沈を北が認め、謝罪し、再発防止を約束するなど最低限の先行措置が取られるべき」と主張。北朝鮮は事件を「韓国側の自作自演だと言い、撃沈を主導した金英哲(朝鮮労働党副委員長)は今年4月の訪韓で『私が哨戒艦撃沈の主犯だと言われる人間だ』と小憎らしい態度まで見せた」と不快感を露わにしている。
波紋が広がると康外相は前言を覆して謝罪。翌日には趙明均統一相が「5・24措置解除を検討したことはない」などと火消しに躍起となった。
5・24措置解除はこれまで北朝鮮が繰り返し要求してきたものだ。金正恩党委員長との3回の南北首脳会談で十分に対話の場を持った韓国が北朝鮮側の意向を忖度し、南北経済協力を制裁の例外として認めてもらうなどの方法で制裁解除の道筋を探ったとしても不思議ではない。
康外相に制裁解除の質問をぶつけた李代表は文政権きっての親北派。先日は北朝鮮のスパイを取り締まる国家保安法の見直しを提起し物議を醸していた。文大統領が「師」と仰ぐ盧武鉉大統領を首相として近くで支え、盧政権での南北首脳会談で発表した共同宣言から11年になる今月4日には150人から成る訪朝団を率いて訪朝するなど何かと親北的な言動が目立つ。
このため一部では、訪朝帰りの李氏が共同宣言で中断された各種経済協力を再開させたい北朝鮮の意向を汲(く)み、韓国政府に制裁解除を促したのではないかとの見方も出ている。
文政権は表向きには「制裁解除には北朝鮮非核化が大前提」との立場を崩さないが、今年発覚した韓国業者による北朝鮮産石炭の密輸などすでに制裁破りを看過していた疑惑が浮上した。世論調査機関リアルメーターが先月実施した世論調査では「北朝鮮が非核化する前の南北交流協力」について賛成が58・6%(反対29・1%)に達するなど、世論も制裁解除に肯定的だ。












