南北首脳会談、北のペースに乗せられるな
北朝鮮を訪問している韓国の文在寅大統領は、金正恩朝鮮労働党委員長と首脳会談を行い、合意文書「平壌共同宣言」に署名した。
だが最大の焦点である北朝鮮の非核化をめぐっては、実質的な進展があったとは言い難い。北朝鮮が本当に非核化の意志を持っているのか疑念は強まるばかりだ。
正恩氏がソウル訪問へ
正恩氏は首脳会談後の記者会見で「朝鮮半島を核兵器、核脅威のない平和の地にするため、積極的に努力する」と述べた。非核化の意志を対外的に表明することで、停滞する米朝交渉を打開する狙いだろう。
共同宣言には、北朝鮮が北西部・東倉里のミサイルエンジン実験場と発射台を関係国専門家の監視の下で廃棄し、米国が相応の措置を取れば寧辺核施設の永久廃棄と同じような追加措置を講じることが盛り込まれた。しかし、米国の対応を求める条件付きでは国際社会を納得させることはできない。
北朝鮮の核開発は国連安全保障理事会決議や2005年9月の6カ国協議共同声明などに違反するものだ。本来であれば、無条件で非核化に向けた具体的行動を早急に取るべきである。
正恩氏は近くソウルを訪問すると約束したとも述べた。北朝鮮最高指導者の訪韓が実現すれば、板門店の韓国側を除いては分断後初めてで画期的な出来事となる。だが、北朝鮮非核化の行方が不透明な現状では手放しで歓迎するわけにはいかない。
懸念されるのは、文氏が南北融和を進めるあまり、北朝鮮の核問題解決が遠のくことだ。共同宣言には、南北が東西両海岸沿いの鉄道・道路連結で年内に着工式を行うほか、条件が整い次第、開城工業団地の操業と金剛山観光の再開などに向け協議することが盛り込まれた。だが、こうした動きで国連などによる北朝鮮への経済制裁がなし崩しにされる恐れがある。
韓国側は、共同宣言について「実質的に(朝鮮戦争の)終戦を宣言した」と強調している。南北が共同歩調を取って米国が難色を示している終戦宣言を促した形だ。だが、終戦宣言は北朝鮮が在韓米軍の撤収を要求する口実とすることが憂慮されている。
先に訪朝した韓国の鄭義溶国家安保室長は、正恩氏が終戦宣言と在韓米軍撤収は「関係がない」と語ったとしている。しかし、北朝鮮は核や日本人拉致などの問題で何度も国際社会を欺いてきた。終戦宣言に関しても前言を翻す可能性は否定できないだろう。
気掛かりなのは韓国だけではない。今年11月の米中間選挙を前に北朝鮮の非核化を実績としたいトランプ米大統領は、正恩氏との再会談の実現に前のめりになっている。今回の首脳会談についても、ツイッターに「非常に興奮している!」と書き込んで評価した。
国際社会は圧力堅持を
米国も韓国も北朝鮮のペースに乗せられていると言わざるを得ない。今のままでは北朝鮮の非核化実現はおぼつかない。非核化への具体的な行動が見られるまで、国際社会は北朝鮮への圧力を堅持すべきだ。