北の核物質生産、非核化より体制保証に執着か


 ポンペオ米国務長官は上院外交委員会の公聴会で、北朝鮮が現在も核物質の生産を続けていると明らかにした。「完全な非核化」の履行で合意した先月の米朝首脳会談後、米メディアが指摘していた北朝鮮の核開発継続をポンペオ氏が初めて認めたものだ。時間が経過するにつれ、北朝鮮に非核化を迫ることの難しさが増している。

  米に終戦宣言を促す

 北朝鮮は北西部の寧辺に使用済み核燃料再処理とウラン濃縮の施設を持ち、平壌郊外にはウラン濃縮の秘密施設「カンソン」もあるとされる。だが、活動停止の兆候は確認されておらず、むしろ通常運転していると米韓当局は判断しているようだ。

 北朝鮮は海外メディアを招待し北東部の豊渓里にある核実験場を閉鎖するとして坑道爆破を行い、北西部の東倉里にあるミサイル実験場でも廃棄の動きが見られるというが、いずれも国際社会の検証はないままだ。このため見せ掛けのショーだという疑いは晴れていない。

 それでもポンペオ氏は非核化について「進展している」と強気の発言をした。トランプ米大統領の任期中に一定の「成果」を挙げるという政治目標を掲げているためなのだろう。しかし、それでは交渉巧者の北朝鮮に足元を見られ、国際社会が望む完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)には到底こぎ着けられない。

 北朝鮮は非核化には逆行する一方、朝鮮戦争の終戦宣言にはかなり執着しているようだ。国営メディアなどを通じ米国に繰り返し終戦宣言に応じるよう促しているほか、中朝両国の外務次官がこの問題について話し合ったとの見方が出ている。

 終戦宣言後、現在の休戦協定を平和協定に転換させるのが北朝鮮の狙いだと言われている。体制保証につながるからだ。

 平和協定を締結すれば在韓米軍は駐屯する理由がなくなり、米軍は北朝鮮の撤収要求に応じないわけにはいかなくなる。北朝鮮非核化が完全に終わらない段階で米軍が撤収した場合、韓国は単独で核を保有する北朝鮮と対峙(たいじ)するという軍事リスクを負うことになる。

 北朝鮮は休戦協定締結65周年の27日、朝鮮戦争で捕虜となったり行方不明になったりした後に死亡した米兵の遺骨55柱を米国側に返還した。米朝首脳会談の合意に沿った措置だが、協定締結日に合わせることで終戦宣言問題をアピールする狙いもあったようだ。

 北朝鮮は今後も非核化には消極的である一方、体制保証につながる終戦宣言や平和協定締結などを米国に強く求めることが予想される。

 ポンペオ氏は北朝鮮との非核化交渉について「難しい敵を相手にした複雑な交渉」と述べたが、すでに北朝鮮ペースに巻き込まれつつあると感じているのではないか。このままでは非核化が置き去りにされる。

 最大限の圧力が必要

 拉致・核・ミサイル問題の包括的解決を目指す日本としては、北朝鮮に振り回されることなく非核化が実現されるまでは最大限の圧力を加えるよう米国や韓国をはじめ国際社会に働き掛け続ける必要があろう。